2019年08月21日、神奈川県相模原市に本拠を置く会員制食品宅配の「メイプルフーズ」が、横浜地裁相模原支部より破産手続きの開始決定を受けました。かつては大手食品メーカーの実験事業から派生し、首都圏を中心に3万世帯もの会員を誇った同社ですが、時代の荒波に抗うことはできませんでした。SNS上では「親が利用していたのでショック」「昔ながらの丁寧な宅配がなくなるのは寂しい」といった、長年の愛用者による惜しむ声が散見されます。
同社のルーツは1974年にまで遡り、冷凍食品の家庭向け直販という当時としては画期的なモデルでスタートしました。1998年には現代表の藤江敬氏が事業を引き継ぐ形で独立し、無添加の天然だしや国産食材にこだわった健康食ブランド「美健倶楽部」などを展開します。特に60歳前後の女性層から厚い信頼を寄せられ、2003年09月期には年間売上高が約12億5400万円に達するなど、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いを見せていました。
自社工場という「重荷」と投資判断の誤算
経営の歯車が狂い始めたきっかけは、2012年に断行した千葉県での自社工場開設でした。それまで外部に委託していた製造を内製化し、利益率の向上を狙った戦略でしたが、これが裏目に出ます。工場の取得に伴う約1億2000万円の借入金が重くのしかかっただけでなく、完全な自社製造体制への移行に2年もの歳月を要してしまいました。この間に発生した二重のコストが資金繰りを急速に圧迫し、経営体力は確実に削られていったのです。
さらに、かつての成功体験に縛られたビジネスモデルの陳腐化も深刻でした。同社は「メンバーレディ」と呼ばれる個人販売員が顧客の窓口となり、口コミや対面で会員を広げるアナログな手法を主軸としていました。しかし、ネット通販の台頭やメンバー自身の高齢化により、若年層の新規開拓は遅々として進みません。2018年09月期の売上高は約5億4300万円とピーク時の半分以下にまで落ち込み、4期連続の営業赤字という危機的状況に陥りました。
経営者を追い詰めた「リスケ疲れ」の恐怖
ここで注目すべきは、専門用語で「リスケ(リスケジュール)」と呼ばれる、金融機関への返済条件変更です。同社は約5年間にわたり返済を猶予してもらう措置を受けていましたが、業績が改善しない中での綱渡りは、経営者の精神を摩耗させました。80歳近い代表が、年商に匹敵する負債と毎日の資金繰りに追われる「リスケ疲れ」の状態にあったことは想像に難くありません。まさに、気力が尽きた「ギブアップ型」の倒産と言えるでしょう。
私自身の見解を述べさせていただくと、本件は単なる一企業の失敗ではなく、日本の中小企業が抱える構造的な問題を象徴しています。良質な商品を持っていても、販路のデジタル化や代替わりのタイミングを逸すれば、過去の遺産は一転して重荷に変わります。特に、人との繋がりを重視するアナログなモデルほど、組織の若返りに失敗した際のダメージは致命的です。今後、同じように「返済猶予の期限」と「経営者の寿命」の狭間で苦しむ企業が増えるのではないでしょうか。
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