景気減速の不安を映す鏡!融資枠(コミットメントライン)が過去最高の35兆円に急増した背景と、企業・金融機関の思惑

2019年6月17日の時点で、企業が銀行と事前に契約し、必要な時にいつでも資金を借りられる仕組みである融資枠(コミットメントライン)の契約額が、かつてない規模にまで拡大しているのをご存じでしょうか。2018年半ば頃から増加の勢いが加速し、2019年4月には前年同月比9%増となる35兆円という、驚くべき過去最高の水準に達しています。このコミットメントラインの急増は、経営者たちが感じている景気の先行きに対する不安心理を色濃く映し出していると言えるでしょう。

コミットメントラインとは、あらかじめ設定された金額の範囲内であれば、定められた期間中にほぼ無審査で何度でも融資を受けられる契約です。通常の融資のように、資金が必要になるたびに煩雑な審査を受ける必要がないため、例えば売掛金の回収が遅れて急に資金繰りが厳しくなった「有事」の際に、迅速かつ機動的に資金を調達できるメリットがあります。複数の金融機関が共同で融資枠を設定する「シンジケート方式」が採用されることも多く、これは企業にとって大きな安心材料になっているはずです。

日本銀行が全国のメガバンクや地方銀行など113行を対象に集計した結果を見ると、2019年4月時点での契約残高は35兆362億円、契約先数も1年前に比べて8%増の1万3455件に上っています。この背景には、景況感の悪化を懸念する企業側の強いニーズがあると考えられます。実際、内閣府が発表する企業の景況感を示す指標「景気ウォッチャー調査」の現状判断指数(DI)も、2018年半ばから目立って悪化しており、これと歩調を合わせるように、コミットメントラインの増加ペースも上昇しているのが実情です。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の笹島勝人シニアアナリストや、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストも、この融資枠の需要が「景気悪化の懸念」や「企業の景況感」と高い連動性を持っていると指摘しています。SNS上でも、この報道に対し、「企業の危機管理意識が高まっている証拠だ」「金融引き締めの足音が聞こえてきたのか」といった、今後の経済動向を不安視する声が多く見受けられ、関心の高さがうかがえます。

企業側の具体的な動きとしては、中堅化学メーカーの堺化学工業が2019年3月、三菱UFJ銀行や紀陽銀行など6行と80億円を限度とするコミットメントライン契約を締結しました。同社の取締役、中西敦也氏は、2018年末に中国でのスマートフォン生産減少から波及したとみられる需要減があり、現在も中国からの需要は弱い状態が続いていると説明しています。この契約は、世界経済の先行きが不透明な中で、景気減速に備えて資金に余裕を持たせるための戦略的な措置なのです。

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新興企業や地方企業にも広がる「守りの資金調達」

近年の契約の傾向を見ると、新興企業による融資枠の確保が相次いでいる点も注目されます。例えば、衣料品通販サイトを運営するZOZOは、プライベートブランド(PB)事業の苦戦などが響き、2019年3月期は純利益が前期比2割減となりましたが、同年3月に三井住友銀行などと150億円を上限とする契約を締結しました。これは「必要な運転資金を機動的に確保する」ことを目的としています。また、2019年3月期に最終赤字に陥ったRIZAPグループも、2019年5月にみずほ銀行などと70億円の契約を結び、日々の運転資金に充てると説明しています。急成長にブレーキがかかり始めた新興企業にとって、不測の事態に備える「守りの資金調達」としてのコミットメントラインの重要性が増していると言えるでしょう。

さらに、これまでは主に大手銀行が融資の中心を担っていましたが、最近では「地方銀行の契約が伸びている」という見方がメガバンク側から多く聞かれます。中国景気の減速の影響は日本の地方経済にも波及し、加えて人口減少という逆風も強い地域経済において、企業は資金繰りの安定化を強く求めているからです。笹島シニアアナリストは、コミットメントラインが「融資先の倒産を防ぐ手立て」としての効果もあると述べており、地方経済の安定に一役買う可能性を秘めているのではないでしょうか。

一方、金融機関側にもコミットメントラインを積極的に推し進める事情が存在します。企業が実際に借り入れをしなくても、銀行は契約手数料を受け取ることができます。これは、日本銀行の超低金利政策によって利ざや(融資の金利と預金の金利の差)が縮小し、収益の確保が難しくなっている地方銀行にとって、貴重な収入源となるのです。海外での融資や運用も伸ばしにくい現状では、金融機関側の経営戦略としても、コミットメントラインの契約拡大は非常に重要な意味を持っているに違いありません。

過去の例を見ても、リーマン・ショックや欧州債務危機、東日本大震災といった経済の先行きに不安が生じた時期には、決まってコミットメントラインの契約額が膨らむ傾向がありました。直近では2018年半ばから、米国が中国製品への追加関税を発動するなど、米中貿易摩擦が激化し、世界経済の先行きへの不安が一段と高まっています。この融資枠の急増は、企業経営者が未来に潜むリスクを肌で感じ取り、その備えとして「いざという時の保険」を求める心理の表れであり、私たちが景気動向を判断する上で、非常に示唆に富むデータだと感じています。

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