フランスのマクロン政権は2019年09月27日、2020年度に向けた野心的な予算案を公表しました。今回の目玉は何といっても、総額93億ユーロ(約1兆950億円)にものぼる家計向けの大型減税です。長期化する反政権デモ「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト運動)」などの世論に配慮し、国民の生活実感を直接的に改善しようとする政府の強い姿勢が伺えます。SNS上では「ようやく暮らしが楽になるのか」といった期待の声が上がる一方で、将来的な財政負担を懸念するシビアな意見も飛び交っています。
具体的な減税の内容を見ていくと、低所得者層をメインターゲットとした約50億ユーロの所得減税に加え、住民税の段階的な廃止が柱となっています。ここで言う「所得減税」とは、働いて得た収入にかかる税金を安くすることで、手取り額を増やす仕組みを指します。ルメール経済・財務相は会見で、国民が労働の対価をしっかりと享受できる社会の実現を強調しました。働く意欲を削がないこの施策は、停滞する国内消費を刺激する起爆剤として期待されているのでしょう。
注目すべきは、これほどの減税を行いながらも、欧州連合(EU)が定める「財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内に抑える」という厳しいルールをクリアしている点です。2020年度の赤字幅は2.2%に抑制される見通しで、2019年度の3.1%から大幅な改善を見せています。この背景には、歴史的な「超低金利」という追い風があります。政府が借金(国債)を返す際の利息負担が減ったことで生まれた余裕を、そのまま国民への還元に回すという巧みな戦略が垣間見えます。
しかし、バラ色の展開ばかりではありません。マクロン大統領が掲げていた「公務員ポスト5万人削減」という行政改革の目標は、市民の反発を受けて1万人へと大幅に下方修正されました。痛みを伴う改革が後退したことで、抜本的な構造改革が進まないリスクも孕んでいます。個人的な見解を述べれば、目先の減税で国民の支持を得ることは重要ですが、GDP比約99%にまで膨らんだ累積債務(国全体の借金の積み残し)を放置すれば、次なる経済危機への備えが疎かになるのではないかと危惧しています。
この予算案は2019年09月27日の閣議で承認され、今後は議会での審議へと移ります。減税というアメを与えつつ、いかにして国家の規律を保つのか。マクロン政権の舵取りは、まさに正念場を迎えていると言えるでしょう。経済の再生と国民の納得感を天秤にかける試みは、日本を含む先進諸国にとっても共通の課題であり、今後のフランス経済がたどる軌跡からは目が離せません。一時の「減税ブーム」に終わらせず、持続可能な成長へと繋げられるかが鍵となるはずです。
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