日本の食卓に欠かせないお米の情勢に、大きな変化が訪れようとしています。農林水産省が2019年09月30日に発表した「2019年産米の作柄概況」によれば、今年のお米は5年ぶりに需要を上回る「供給過剰」に陥る見通しとなりました。北海道をはじめとする北日本を中心に記録的な豊作が見込まれており、これまで高値で推移してきた流通価格が下落に転じる可能性が浮上しています。
お米の出来栄えを測る物差しとして「作況指数」という指標が使われます。これは平年を100として、99から101を「平年並み」、それ以上を「良」とする統計数値のことです。2019年09月15日時点の全国平均は101を記録し、天候不順に悩まされた昨年から3ポイントも改善しました。予想収穫量は736万9000トンに達し、需要に対して約10万9000トンも上回る計算となります。
振り返れば、今年の夏は農家の方々にとってハラハラする展開の連続だったに違いありません。梅雨明けが例年より遅れた影響で、6月から7月にかけての北日本は日照不足や低温に見舞われ、一時は不作も懸念されていました。しかし、お米の粒が成熟する8月に入ると一転して夏らしい日差しが戻り、生育が劇的に回復したのです。まさに自然の生命力と天候の妙が、この豊作を引き寄せたと言えるでしょう。
地域別のデータを見ると、特に山形県などのブランド米産地が好調です。人気銘柄「つや姫」を擁する山形県の作況指数は105という「やや良」の判定を受けました。昨年の厳しい曇天を乗り越え、今年は一粒一粒が大きく育っているとの声も届いています。こうした北日本の勢いが、豪雨被害に見舞われた九州地方などの減収分を十分に補う形となり、日本全体としての供給量を押し上げています。
主食用米への回帰と市場のジレンマ
SNS上では「お米が安くなるのは家計に助かる」と喜ぶ消費者の声がある一方で、農業の先行きを不安視する意見も散見されます。実は今回の供給過剰には、天候以外の要因も深く関わっているのです。政府はこれまで、供給を抑えて米価を維持するために、家畜の餌となる「飼料用米」への転換を補助金で推奨してきました。しかし、近年は主食用のお米の価格が高止まりしていたため、農家の意識に変化が生じています。
2019年産の飼料用米の作付面積は、前年比で約1割も減少しました。農家の方々にとっては、補助金をもらって飼料用を作るよりも、高く売れる主食用のお米を作った方が最終的な利益、いわゆる「手取り」が増えるという判断があったようです。市場原理に従えば自然な流れですが、その結果として供給が増えすぎてしまい、自分たちの首を絞める価格下落を招くという皮肉なジレンマに直面しているのが現状です。
編集部としては、美味しいお米が安く手に入ることは喜ばしい反面、持続可能な農業のあり方について考えさせられます。豊作を素直に祝える環境を作るには、単なる減反や補助金頼みの政策ではなく、消費拡大に向けた抜本的な工夫が求められているのではないでしょうか。供給過剰というニュースが、改めて私たちが毎日口にする「ごはん」の価値と、それを支える農村の現実に目を向けるきっかけになることを願ってやみません。
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