2019年6月17日、カナダの老舗小売大手、ハドソンズ・ベイ・カンパニー(Hudson’s Bay Company, HBC)に対し、リチャード・ベーカー会長を筆頭とする大株主グループが、残る株主の持ち株を買い上げ、会社を非公開化する提案が提出されました。これは、激変する経営環境、とりわけデジタル化の波に乗り切れず、株価の低迷に苦しむ同社にとって、起死回生の一手となるのか、大きな注目を集めています。この**非公開化(Private Equity/Going Private)とは、上場企業が発行する全ての株式を特定の株主が取得し、市場での取引ができないようにすることです。市場のプレッシャーから解放され、長期的な視点での大胆な経営改革が可能になるというメリットがあります。
ハドソンズ・ベイは、アメリカの高級百貨店として知られるサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)**や、ロード・アンド・テイラー(Lord & Taylor)といった名だたるブランドを傘下に収めていますが、近年はアマゾン・ドット・コムをはじめとするインターネット通販の猛攻にさらされ、既存の百貨店業態の不振が顕著になっていました。提案を行った大株主グループは、ベーカー会長のほか、投資ファンドのローヌ・キャピタル、さらにはシェアオフィス大手ウィーワークの不動産投資部門などが名を連ねており、彼らはハドソンズ株の約57パーセントをすでに保有しているとのことです。
彼らが示す非公開化の最大の理由は、「経営環境の急激な変化に対応するには非公開化が最適」という点です。公開企業として四半期ごとの業績報告などに追われるプレッシャーから離れ、外部に情報が公開されない状況で、腰を据えた抜本的な事業構造の改革を進める必要があるとの判断が背景にあるのでしょう。買収総額は17億4千万カナダドル、日本円にしておよそ1,426億円にも上る見通しで、この巨額の資金は全額現金で支払われる計画です。資金調達の一環として、ハドソンズが欧州で展開している合弁事業の売却も視野に入れている模様です。
この動きに対し、ハドソンズ・ベイ側も直ちに反応し、提案内容の吟味を進めるために、ベーカー会長ら提案者から独立した取締役たちで構成される特別委員会(Special Committee)の設置を公表しました。非公開化は、一般株主にとって保有する株が強制的に買い取られることになるため、その価格設定やプロセスは公正である必要があり、この委員会が株主利益を守る重要な役割を担います。
ハドソンズ・ベイは、2012年にベーカー氏主導で株式を再公開して以降、2013年のサックス買収、2015年のドイツの百貨店チェーン、ガレリア・カウフホーフの買収など、積極的な拡大戦略を展開してきました。しかし、その後の小売市場の劇的な変化、特にEコマースの台頭により、これらの百貨店業態は苦戦を強いられています。この非公開化提案は、伝統ある百貨店ビジネスモデルが、いかに現代の市場で生き残りをかけているかを示す象徴的な事例と言えるでしょう。
デジタル時代を生き抜くための劇薬か、ハドソンズの決断に注目
SNS上では、「ついにハドソンズもか…」「百貨店の時代は本当に終わってしまうのか」といった、伝統的小売業の苦境に対する懸念を示す声や、「非公開化でアマゾンに対抗できるような大胆な戦略が生まれることに期待したい」といった、改革への期待が入り混じった意見が交わされています。私見ですが、この提案は、デジタル化の波に乗り遅れた巨大老舗企業が、生き残るために打つ、一種の「劇薬」であると捉えるべきでしょう。上場を維持しながらでは、どうしても短期的な視点での業績回復を求められ、抜本的な改革に踏み出しにくい状況があります。
非公開化によって、彼らは不動産資産の有効活用や、不採算部門の迅速な整理、そして何よりもオンラインとオフラインを融合させたオムニチャネル戦略への巨額投資を、市場の目を気にせず実行に移せるようになるでしょう。世界的なブランドを多数抱えるハドソンズ・ベイが、この難局を乗り越え、小売業界の新たなビジネスモデルを構築できるのか、その行方はカナダ国内だけでなく、世界の小売市場に大きな影響を与えることになるでしょう。
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