2019年6月14日、日本の食を支える中央卸売市場が大きな岐路に立っていることが報じられました。特に名古屋市では、制度改革の議論が本格化しており、この背景には、2020年6月に施行される改正卸売市場法で、国や自治体が運営してきた中央卸売市場の民営化が法制度上可能になるという大きな変化があります。これまでの「公」による管理体制から、民間の活力を取り入れる道が開かれることで、市場のあり方そのものが問われています。
こうした状況を受け、名古屋市では、中央卸売市場の今後の方向性を議論するための有識者懇談会が設けられました。この懇談会で座長を務めるのが、会計学を専門とし、関西大学会計専門職大学院の教授である柴健次氏(当時65歳)です。柴氏は、現在の卸売市場が直面する最大の課題として、市場を介さない流通が拡大している点を挙げています。インターネット販売の一般化や、産地から大手小売業者への直接取引が増加しているため、市場の取扱量が減少し、本来市場が担ってきた「公平・公正な価格形成」という重要な機能について、改めて議論する必要があるという認識を示されています。
柴氏によると、中央卸売市場の民営化の是非は、自治体の財政逼迫(ひっぱく)や、公共サービスの担い手を官からNPOや民間に多様化させるという社会全体の潮流とも無関係ではありません。経済学的な観点からは、民営化は社会コストの削減、つまり社会全体でかかる費用の抑制に繋がるというメリットが指摘されています。しかし、名古屋市の中央卸売市場の場合は、その規模や実務上の問題を詳細に検討しない限り、安易に民営化が良いという結論は出せないとし、現場の意見を尊重しながら慎重に議論を進める姿勢が重要だと強調されています。
地方の卸売市場の中には、**IT(情報技術)**の活用や、**PFI(Private Finance Initiative:民間資金を活用した社会資本整備)**といった手法でコスト削減や効率化を図る事例も存在します。PFIとは、公共施設の建設や運営に民間の資金やノウハウを取り入れる仕組みです。懇談会は2019年5月に始動したばかりで、具体的なIT化やPFIの是非を論じる段階にはまだないものの、今後は国内外のあらゆる成功事例を参考に議論を深めていく予定だと柴氏は述べています。
さらに、市場を消費者にとってより身近な存在にするためのアイデアも模索されています。柴氏は、東京都の豊洲市場を視察した際に、観光客が生鮮食品を直接購入できる仕組みや、一般見学者専用の通路が設けられている点に「おもしろさ」を感じたそうです。今後、比較的規模の大きな横浜市など、他の市場への視察も計画されており、これらの事例を通じて、名古屋の市場に合った新しいあり方を検討していくことになるでしょう。
この有識者懇談会の議論は、名古屋市側は年度内(2020年3月まで)の取りまとめを目標としていますが、柴氏はこの会議の特徴として「方向性を決めずに自由に話し合う」ことを挙げています。その上で、市に対して具体的な改革案を提示していく方針であり、最終的な決定権は市側にあると説明されています。名古屋市中央卸売市場は、1949年の設立から70年もの長きにわたり、市民の食生活に不可欠な食材を安定的に供給し、適正な価格形成という社会的役割を担ってきました。この責任は今後も変わることはありません。
しかし、インターネットを通じた産地直送など、物流環境が激変する中で、同市場の取扱高がこの10年間で約2割も減少しているという事実は、抜本的な改革の必要性を強く示しています。したがって、筆者個人の見解としては、名古屋市が有する3つの市場の統廃合や、前述の民営化を含めた、あらゆる選択肢を視野に入れた議論と検討が不可欠であると考えます。既存の枠組みに囚われず、未来を見据えた大胆な改革こそが、市場の持続可能性を高め、市民の食の安全と安定供給を守る最善の道となるでしょう。
この報道に対し、SNS上では「市場の役割は価格だけではない、食の安全や物流のハブとしての機能も見直すべきだ」「PFIや民営化でコストが下がるなら前向きに検討してほしい」「IT化は必須。取引の効率化を進めるべき」といった意見が多く見受けられました。一方で、「公平な価格形成という公的な機能が失われるのは困る」「民営化で現場の職人たちが疲弊しないか心配だ」という、市場の公共性や働く人々への配慮を求める声も上がっており、市場改革の議論が社会全体から注目を集めていることがうかがえます。
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