北陸地方の交通事業者による高速バス事業が、今、目覚ましい成長を遂げています。特に、富山地方鉄道(富山地鉄)は、2019年3月期の高速バス事業の売上高が前期比で7%増を記録し、その勢いが止まりません。この好調の背景には、2015年の北陸新幹線金沢延伸開業による、長距離移動のルート変化が深く関係しています。新幹線開業によって、富山と名古屋を結ぶ直通の在来線特急列車が姿を消したことが、皮肉にも高速バスの需要を大きく押し上げる結果となっているのです。
富山地鉄の新庄一洋取締役は「長距離移動でも、目的地によっては鉄道よりもバスが便利だと、多くの人々に理解してもらえるようになった」と、現在の好調ぶりについて語ります。富山地鉄の高速バス事業の売上高は、2019年3月期で9億3,000万円に達しました。特に看板路線である富山〜名古屋線は、現在1日14往復という高頻度で運行されており、運賃は片道4,630円、所要時間は3時間40分ほどです。
一方、JR線を利用する場合、富山から名古屋へ向かうには、新幹線を乗り継ぐルート(富山〜金沢間と米原〜名古屋間で新幹線利用)では、運賃はすべて自由席でも1万円強が必要となり、所要時間は3時間10分前後を要します。また、北陸新幹線開業後に残された直通の特急列車は、高山線を経由する4往復のみで、約4時間もかかってしまいます。この運賃と所要時間のバランスを総合的に比較し、よりリーズナブルで利便性の高い高速バスを選ぶ乗客が急増している状況が鮮明になっています。
国土交通省の旅客地域流動調査によると、2017年度に富山県と愛知県の間を乗り合いバスで移動した利用者の数は31万9,000人に上ります。これは北陸新幹線開業前に比べて6割弱も増加しており、ついにJRの利用者数を上回るという**「逆転現象」が発生しました。富山県高岡市に拠点を置く加越能バスやイルカ交通も、高岡〜名古屋線を運行しており、この需要拡大を後押ししています。加越能バスでは2018年3月に名古屋線の運行を1往復増やして計7往復とした結果、「名古屋線の売上高が15%増になった」(稲田祐治社長)と、その効果を肌で感じているようです。
富山〜新潟間やインバウンドにも波及するバス好調の波
新幹線開業の影響は、富山〜名古屋間に留まりません。直通の特急列車が廃止された富山〜新潟間でも、高速バスが鉄道の「受け皿」として機能し始めています。富山地鉄は、2018年の一部期間で運行を4往復に増やした際に「十分な需要があると判断できた」ことから、2019年4月にはこの路線を恒常的に従来の2倍となる4往復に増便し、利用者からの期待に応えています。
また、近年増加する訪日外国人**、いわゆるインバウンド旅行者の存在も、高速バス事業に大きな恩恵をもたらしています。北陸鉄道が運行する金沢〜白川郷・高山線は、1日計10往復という充実したダイヤで、外国人観光客に絶大な人気を誇っています。あまりにも予約が殺到するため、同じ運行ダイヤで複数台のバスを走らせて乗客をさばくケースも多く見受けられ、その活況ぶりは目を見張るものがあります。
北陸鉄道の連結決算における「運輸業」の売上高は、2019年3月期の実績で105億円となりましたが、その大半を占めるバス事業のうち、市街地を走る乗合バス事業の客数は前期比で1.1%減と「大幅な減収」(同社)に見舞われています。しかしながら、高速バス事業の増収が、この減収傾向にある事業全体の経営を下支えしているのが現状です。これは、人口減少社会における地方の交通インフラにおいて、収益性の高い長距離高速バス路線が、地域の足を守るための重要な**「生命線」となっていることを示していると言えるでしょう。
この富山〜名古屋間での高速バスのJR逆転劇は、交通手段を選択する際に、利用者が費用対効果(コストパフォーマンス)を重視する傾向が強まっていることの証左です。SNS上でも、「新幹線代を考えると、名古屋までバスで行くのは賢い選択だ」「時間差が30分程度なら、値段が半分以下のバス一択だ」といった、運賃の安さを評価する声や、「直通特急がなくなったのは痛いが、バスが充実してくれて助かった」という、利便性の向上を歓迎する反響が散見されます。この傾向は、鉄道の代替手段としてだけでなく、高速バスがそれ自体で独自の価値**を持つ交通インフラとして確立されたことを意味しており、今後もその成長に注目が集まることでしょう。
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