石川県金沢市の中心部に、日本の工芸文化の新たな拠点となる「国立工芸館」がいよいよその姿を現しました。2019年11月21日、2020年の開館に先駆けて建物が報道関係者に公開され、その美しさが大きな注目を集めています。今回のプロジェクトは、歴史的建造物を単に移設するだけでなく、建設当時の輝きを取り戻すという壮大な試みです。
建物の核となるのは、国の登録有形文化財にも指定されている旧陸軍の「第9師団司令部庁舎」と「金沢偕行社(かいこうしゃ)」の2棟です。これらを移築した上で、両者をつなぎ合わせる形で新たな美術館へと生まれ変わらせました。明治時代の情緒溢れるデザインが現代に蘇る様子は、まさにタイムトラベルをしたかのような錯覚を覚えるほどです。
特筆すべきは、徹底した時代考証による復元のこだわりでしょう。かつて失われてしまった部分を丁寧につくり直し、外壁の質感や窓枠の色彩についても、明治期の建築当初の姿を忠実に再現しています。SNS上では「レトロな雰囲気がたまらない」「金沢の街並みにぴったりの気品がある」といった、完成を心待ちにする声が数多く寄せられています。
内部に足を踏み入れると、そこには豪華なシャンデリアや、職人技が光る「しっくい」のレリーフが施されています。しっくいとは、消石灰を主原料とした伝統的な塗り壁材のことで、その滑らかで白い輝きは空間に格調高い風格を与えます。細部に至るまで当時の意匠が再現されており、工芸作品を鑑賞するための最高の舞台が整えられたといえるでしょう。
展示面積もパワーアップ!体験と学びが融合する新拠点へ
今回の移転に伴い、利便性と機能性も大幅に向上しました。東京・千代田区にある現在の国立近代美術館工芸館にはなかった「ミュージアムショップ」が新設され、お気に入りの一品を探す楽しみが加わります。また、工芸体験や講演会が行える多目的スペースも用意されており、観るだけでなく自ら学ぶ機会も提供されるのが魅力です。
展示環境についても、3つの展示室を合わせると従来のスペースより約1割拡張されました。ここには人間国宝による珠玉の作品を含む1900点以上の名品が収蔵される予定です。私は、伝統工芸が息づく金沢という地で、これらの至宝が公開されることには深い意義があると考えています。文化が生まれた土地で鑑賞することで、作品の魂をより身近に感じられるはずです。
さらに、石川県出身の偉大な工芸家である松田権六(まつだごんろく)氏の自宅工房も、東京都文京区から丸ごと移築されることになりました。作家がどのような環境で創作に打ち込んでいたのか、その息遣いまで感じられる貴重な展示となるでしょう。金沢が「工芸の聖地」として世界へ羽ばたく瞬間を、私たちは2020年に目撃することになります。
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