明治の文豪、森鴎外がかつて日本を「普請中(ふしんちゅう)」と表現したのは有名な話ですが、その言葉は現代にも驚くほど当てはまります。普請中とは、家を建てたり修理したりしている最中を指す言葉であり、常に変化し続ける日本の都市風景を象徴しているのです。2019年10月12日に刊行された二村高史氏の著書『定点写真でめぐる東京と日本の町並み』は、そんな終わりのない変貌を鮮やかに描き出しています。
本書の最大の魅力は、昭和50年代や平成初期という「かつての日常」と、令和という「現在」を同じ角度から切り取った定点写真にあります。SNS上では「通い慣れた道なのに、昔の姿を忘れていた」「変わりように驚愕する」といった反響が相次いでおり、ノスタルジーと発見が同居する体験に多くの読者が心を揺さぶられているようです。数十年という歳月が街の形をいかに劇的に作り替えたのか、その証拠がページをめくるたびに目に飛び込んできます。
時間旅行を楽しむ定点写真の魔力
東京をはじめとする日本の都市部では、再開発によって空を遮るような高層ビルが次々と立ち並び、地図を塗り替えるほどの勢いで景色が刷新されました。しかし、著者がレンズを向けた先には、驚くことに数十年前と変わらぬ佇まいを見せる建物も僅かながら存在しています。新旧が交差するその光景は、単なる場所の移動を超えて、読者を時間旅行へと誘ってくれるでしょう。移ろいゆくものと、変わらずに残るものの対比が胸を打ちます。
私は編集者として、この一冊は単なる記録集に留まらない「都市の履歴書」だと感じています。私たちが何気なく歩いている歩道や見上げているビル群には、かつての生活の息吹が重層的に積み重なっているのです。2019年という新しい時代が始まった今、足元の歴史を振り返ることは、私たちがどこへ向かおうとしているのかを考える絶好の機会になるはずです。古きを温め新しきを知る、そんな知的興奮に満ちた体験をぜひ味わってみてください。
コメント