日産自動車がいま、かつてないほどの荒波に揉まれています。2019年10月31日に迫るイギリスの欧州連合(EU)離脱、いわゆる「ブレグジット」の期限が目前に迫り、同社の経営基盤を揺るがす巨額損失の懸念が現実味を帯びてきました。日産は英国に年間40万台もの生産能力を誇る巨大な拠点を構えており、約6000人の雇用を支える大黒柱でもあります。しかし、もし「合意なき離脱」が強行されれば、日本企業の中で最も深刻なダメージを受ける一社になると目されています。
特に懸念されているのが、会計上の「減損損失」の計上です。減損とは、工場や設備などの資産が、将来的に投資した分を回収できるほどの利益を生まないと判断された際、その価値を帳簿上で一気に削り落とす会計処理を指します。2019年3月期時点の報告書によれば、英国工場の資産価値は約868億円も残っています。もし事業環境の悪化でこの価値が毀損したと見なされれば、再建の真っ只中にある日産にとって、この巨額の数字が重くのしかかることになるでしょう。
主力車種の門出を襲う10%の関税という壁
皮肉なことに、2019年10月14日からは英北部のサンダーランド工場で、新型SUV「ジューク」の生産が華々しくスタートしたばかりです。欧州事業が赤字に沈む中、この新型車は復活への希望の光となるはずでした。しかし、関税ゼロの恩恵が失われれば、EU向け輸出には10%の関税が課せられます。単純計算で1台あたり約30万円のコスト増となり、せっかくの新車の競争力を削ぎかねません。SNS上でも「せっかくの新型車が政治に翻弄されるのは悲しい」といった同情の声が広がっています。
証券アナリストの試算によれば、何の対策も講じなかった場合、年間で約900億円もの営業利益が吹き飛ぶ可能性があるといいます。こうした状況を受け、ホンダやフォードはすでに英国内の工場閉鎖を決定し、BMWも生産の一部をドイツへ移管するなど、メーカーの「脱・英国」が加速しています。日産も主力車「エクストレイル」の次期型生産を福岡県へ移す決断を下しましたが、英国拠点の規模が桁違いに大きいため、他社以上に身動きが取りづらいのが実情なのです。
新CEO内田氏の双肩にかかる再建計画の成否
日産は、2020年1月までに内田誠氏が社長兼CEOに就任する新体制を発表しました。前会長の不祥事以降、冷え切った仏ルノーとの関係修復や、2023年3月期に向けた世界14拠点のリストラなど、新リーダーが挑むべき課題は山積みです。今回の英国問題は、まさに「泣きっ面に蜂」とも言える試練でしょう。現在、日産の株価は騒動前と比較して3割も低い水準に低迷しており、市場からは厳しい視線が注がれ続けています。
編集部としては、日産が掲げる「売上高営業利益率6%」という再建目標の達成には、英国工場の抜本的なテコ入れが不可欠だと考えます。新興国中心のリストラ計画だけでは、この巨大な地政学リスクをカバーしきれないのではないでしょうか。内田新体制が、このブレグジットという外圧をいかに逆手に取り、次世代の生産体制へと昇華させられるか。日本のものづくりの意地を見せてほしいところですが、その道のりは想像以上に険しいものになりそうです。
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