MaaSが描く未来の都市交通:データ活用とルール構築が鍵となるデジタル革命の最前線

2019年6月12日に開催された世界デジタルサミットでは、午前中のセッションで「デジタルテクノロジー(DT)がはぐくむ新たなモビリティー」と題したパネル討論が展開されました。この討論には、次世代の移動サービスであるMaaS(マース、モビリティー・アズ・ア・サービス)を牽引する企業の幹部が登壇し、デジタル技術の革新を踏まえたサービスのあるべき姿や直面する課題について、活発な意見交換が行われました。MaaSとは、電車やバス、タクシー、シェアサイクルなど、多様な交通手段をITで連携させ、一つのサービスとして提供する概念です。この新しい移動のあり方が、未来の都市交通をどのように変えていくのか、その可能性に大きな注目が集まっています。

日本交通グループのジャパンタクシーの川鍋一朗社長は、スマートフォンの普及がタクシー業界を「オペレーション産業」から「IT産業」へと変革させたと力説しました。同社が展開する配車アプリは、タクシーを「動く情報収集端末」へと進化させ、利用客と車両を効率よく結びつける役割を果たしています。乗車から決済までをアプリ内で完結させる仕組みは非常に利便性が高く、同社の大きな強みと言えるでしょう。今後は、持続的なビジネスモデルの確立として、手数料モデルの構築などが課題になりますが、川鍋氏は、この取り組みこそが「未来の都市交通を作る」のだと、強い意気込みを表明しています。

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異業種連携と技術革新がもたらす新たな課題

こうした事業戦略の大きな転換に伴い、自動車メーカーと、IT企業をはじめとする異業種との連携、すなわち合従連衡(がっしょうれんこう)が加速しています。自動運転のスタートアップ企業である米ナウトの日本法人代表、井田哲郎氏は、大企業とスタートアップ企業が協力し合うことの重要性について言及しました。「双方が歩み寄り、泥臭く顧客の抱える課題に深く入り込むことが不可欠である」という見解を示されました。ナウトは現在、商用車向けに技術を提供していますが、今後は一般車両向けのサービス展開も視野に入れているとのことです。

しかし、急速な技術革新は、予期せぬ新たな課題も生み出します。ディー・エヌ・エー(DeNA)の中島宏常務執行役員は、約20年前に発生し社会問題となったオークション詐欺を引き合いに出しました。技術が急激に進歩する現代だからこそ、「問題が顕在化する前に、先回りして自主的な規制を進める必要性がある」と警鐘を鳴らしています。DeNAは、ゲーム事業やプロ野球球団運営に続く新規事業として、配車アプリや自動運転技術の開発に注力しており、「収益化の鍵となる部分を工夫し、従来の業界の常識を変えていく」という決意を述べられました。

データ主権とグローバルルールメイキングへの参加

IoT(アイ・オー・ティー、Internet of Things、モノのインターネット)を活用したサービスが拡大する中で、個人データの保護に対する利用者の不安も高まっています。これに対し、欧州連合(EU)では、非常に厳格な個人情報保護の枠組みである一般データ保護規則(GDPR)がすでに施行されています。日本国内でも、莫大なデータを収集・活用する巨大IT企業、いわゆるプラットフォーマーに対する規制の是非について、議論が繰り広げられている状況です。

建機の自律運転技術などで高い競争力を持つ米建機大手キャタピラージャパンの塚本恵代表執行役員は、「日本には大量のデータを保有し、世界的なデータプラットフォーマーになり得る強力な産業が存在している」と指摘し、そのポテンシャルを強調しました。そして、「データ活用のルール作りに関して、世界的な議論に積極的に参加し、日本の立場から声を上げていくべきである」と強く訴えられました。技術革新の波に乗り遅れないことはもちろん重要ですが、同時に、利用者保護とイノベーション促進のバランスを取るためのルール構築が、日本の国際的な競争力を左右する重要な要素となるでしょう。

MaaSをはじめとするデジタル技術を基盤とした次世代モビリティは、人々の移動体験を劇的に向上させ、都市のあり方を根本から変える可能性を秘めています。しかし、そのためには、データの安全な利活用を可能にするためのルール整備と、異業種間の垣根を越えた連携が不可欠です。このデジタル革命の最前線において、日本企業がどのようにリーダーシップを発揮していくのか、今後の展開から目が離せません。

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