日本の不動産投資信託、通称REIT(リート)の歴史が大きく動こうとしています。2019年10月14日現在、スターアジア・グループがさくら総合リート投資法人に対して仕掛けた「敵対的買収」が、市場関係者の間で大きな波紋を広げているのです。これまで安定した分配金が魅力だったこの市場において、既存の秩序を揺るがすような再編劇は極めて異例の事態といえるでしょう。
SNS上では「ついにREITでも乗っ取りが起きるのか」「運用効率が上がるなら歓迎したい」といった期待の声がある一方で、「分配金への影響が心配だ」という不安を口にする投資家も少なくありません。多くの人がこのニュースを注視するのは、これが単なる2社の合併話にとどまらず、日本の不動産投資市場が抱える構造的な課題を浮き彫りにしているからに他ならないのです。
再編を阻む「導管性」という名の高い壁
そもそも、なぜREITの世界では企業の合併や買収がこれまで進まなかったのでしょうか。その最大の要因は、REIT特有の税制上の仕組みにあります。本来、REITは投資家へ効率的に利益を還元するために、一定の条件を満たすことで法人税が実質的に免除される「導管性(どうかんせい)」という特例を受けています。これは、利益を投資家へ直接受け渡すパイプのような役割を果たすための仕組みです。
この特例を維持するためには、配当可能利益の90%超を分配することや、特定の株主が50%を超える議決権を持たないことなど、厳しい要件をクリアし続けなければなりません。もし通常の株式公開買い付け(TOB)で他社を傘下に収めようとすると、これらの条件から外れてしまうリスクが生じます。その結果、せっかくの免税措置が失われ、投資家への分配金が減ってしまうというジレンマを抱えていたのです。
スターアジアはこの難局を打破するために、極めて巧妙な戦略を採用しました。直接的な買収を避ける代わりに、少数投資主として投資主総会を招集し、ターゲットである「さくら」の運用会社そのものを変更するという手法に打って出たのです。自らの影響力が及ぶ運用会社にすげ替えることで、税制の壁を回避しながら実質的な合併へと舵を切るこの動きは、まさに業界の常識を覆す一手でした。
市場の成熟に不可欠なガバナンスと制度設計の転換
私は今回の騒動について、日本のREIT市場が「守り」から「攻め」へ転換するための産みの苦しみであると考えています。これまでのハコモノ的な運用から脱却し、よりダイナミックな資本効率を求める動きは、中長期的には投資家利益に資するはずです。ただし、一部の強引な手法が横行すれば、投資家保護の観点から市場の信頼を損ねる危うさも孕んでいることは否定できません。
今後、REIT市場がさらに健全に発展していくためには、個別のガバナンス強化はもちろんのこと、時代にそぐわなくなった税制の抜本的な見直しが急務でしょう。2019年10月14日のこの衝撃をきっかけに、制度の不備が解消されれば、より透明性の高い市場再編が加速するはずです。新しい不動産投資の形がどのような結末を迎えるのか、私たち編集部も引き続きその行方を厳しく見守っていきたいと思います。
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