金融界の未来を担うはずの技術革新、いわゆる「フィンテック」の現場で、いま深刻な地殻変動が起きています。銀行と外部企業が手を取り合う「オープンバンキング」という輝かしいスローガンの裏側で、両者は相互不信の暗闇に立ちすくんでいるのです。この停滞した状況を打破すべく、独占禁止法の番人である公正取引委員会がついに重い腰を上げました。
事態が表面化したのは2019年10月18日のことでした。東京・霞が関で開催された非公開の産官協議会にて、INCJ会長の志賀俊之氏は、日本のデジタル化が世界から「周回遅れ」であると厳しい言葉を投げかけました。大手銀行や金融庁が話し合いによる解決を強調する中で、志賀氏の強い危機感は、会場に言いようのない緊張感をもたらしたといえるでしょう。
その緊張を決定づけたのが、公正取引委員会による異例の介入宣言です。藤井宣明総務課長は、銀行界の古い慣習が新規参入の壁になっていないか徹底調査し、提言を行う方針を明らかにしました。実は委員会は2019年6月頃から水面下で動き出しており、銀行側にとってはまさに「寝耳に水」の衝撃的な展開となったはずです。
スマホ決済の裏側で渦巻く手数料問題とAPIの壁
今回の調査の大きな焦点となっているのが、PayPayなどのスマホ決済事業者が銀行に支払う「接続手数料」の引き上げ問題です。さらに、家計簿アプリなどのサービスに不可欠な「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」の開放も難航しています。これは、異なるソフトウェア同士が対話するための「窓口」のような仕組みを指します。
このAPI連携の契約期限は2020年05月31日に迫っています。もし交渉が決裂すれば、私たちが普段便利に使っているサービスが突然停止してしまう恐れさえあるのです。SNS上でも「銀行の既得権益守りすぎでは?」「便利なサービスが使えなくなるのは困る」といった、現状の不透明さに対する不安や不満の声が次々と上がっています。
銀行側には、莫大なコストをかけて構築した口座インフラを、新興企業に「タダ乗り」されたくないという強い自負があるのでしょう。しかし、欧州では「顧客データは銀行ではなく顧客のもの」という考え方が浸透しており、API接続が義務化されています。日本の銀行が「安心・安全」を盾に閉鎖的な姿勢を続ければ、結局は利用者の利便性が損なわれてしまいます。
私は、銀行が持つ信頼性とフィンテック企業の機動力が融合してこそ、真のイノベーションが生まれると信じています。銀行は自らの立場を誇示するのではなく、真にユーザー志向のプラットフォームへと進化すべきではないでしょうか。公正取引委員会が2019年度中に出す予定の提言が、日本の金融界にとって「劇薬」となり、停滞を打破することを期待して止みません。
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