現代の食卓において、かつての主役であった和食が静かな危機に直面しています。2019年10月22日現在、焼肉やラーメンといったパンチの効いたメニューに押され、日本人の米離れは止まる気配を見せません。しかし、この現状は決して和食の魅力が失われたわけではなく、その奥深さを正しく伝え、次世代を担う人材を育てる仕組みが追いついていなかった結果だと言えるでしょう。
そんな中、和食の反撃ともいえる新たな動きが各地で芽生えています。SNS上でも「和食の繊細さは日本が誇るべき宝」「修行の厳しさが若者を遠ざけているのでは」といった熱い議論が交わされる中、現場では驚くべき変化が起きています。伝統の門を叩いているのは、日本人ではなく、熱意に溢れた海外からの留学生たちなのです。
国境を越える包丁捌き!留学生が和食の「伝道師」になる日
東京都世田谷区にある東京すし和食調理専門学校では、時計の針を気にしながら大根の桂むきに没頭する学生たちの姿があります。フィリピン出身のマリッサ・アボガさんもその一人で、京都で出会った「懐石料理」の美しさに心を奪われ、この世界に飛び込みました。懐石料理とは、旬の食材を活かし、器や盛り付けに至るまで四季を表現する、和食の真髄ともいえるコース料理のことです。
驚くべきことに、2016年に開校した同校の生徒の半数以上は留学生が占めています。渡辺勝校長は、急増する訪日客への対応として、外国語を操る料理人の需要が高まっていることに大きな期待を寄せています。彼らが母国へ戻れば、本物の日本文化を世界へ広める強力なパートナーとなるでしょう。私は、この多様性こそが、閉塞感のある和食界を打破する鍵になると確信しています。
一方で、日本の在留資格制度が壁となっている現実も見逃せません。現在、外国人が「技能」の資格で働くには中華などの外国料理に限られており、和食での就労は制限されています。しかし、京都の老舗「たん熊北店」の栗栖正博社長は、シンガポール人の青年を受け入れ、技を伝授しています。制度の不備に屈せず、文化を継承しようとする職人の心意気には深く共感せざるを得ません。
伝統食材「かんぴょう」の危機を救ったのはタイの情熱
和食を支える伝統食材の現場でも、ダイナミックな変革が起きています。栃木県の特産品として知られる「かんぴょう」は、夕顔の実を紐状に剥いて乾燥させたものですが、国内の生産量はピーク時の20分の1にまで激減しました。このままでは300年の歴史が途絶えてしまうという危機感から、伊沢商店の伊沢茂社長は2011年にタイへと渡り、現地での生産を決断したのです。
伊沢社長は、夕顔の実の剥き方から干し方に至るまで、現地のスタッフに一から丁寧に指導しました。その結果、タイ産の素材は繊維がしっかりしており、調理に非常に適していることが分かったのです。日本の伝統を形骸化させるのではなく、場所を変えてでも「質の高いもの」を残そうとする柔軟な姿勢こそ、今の日本企業が見習うべき「守破離」の精神ではないでしょうか。
SNSでは「海外産でも技術が本物なら応援したい」という前向きな声が上がっています。和食が生き残るためには、伝統を頑なに守るだけでなく、異文化の力を取り入れ、世界基準でその価値を再定義することが求められています。私たちは今、国境を越えた「真心のバトン」が、和食の新しい歴史を紡ぎ出す瞬間を目撃しているのです。
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