老舗酒蔵の挑戦!東酒造がIoT導入で伝統の「蒸し」を科学する。世界が注目する日本酒の未来とは?

石川県小松市で1860年に産声を上げた歴史ある酒蔵、東酒造が伝統の世界に革新の風を吹き込んでいます。2019年10月12日、同社は日本酒造りの心臓部ともいえる「蒸し」の工程に、最新のIoT技術を導入することを明らかにしました。IoTとは「Internet of Things」の略称で、モノがインターネット経由で通信し、情報をやり取りする仕組みを指します。この技術を活用することで、これまで職人の経験と勘に頼り切りだった温度管理をデジタル化し、生産性の向上を目指すというのです。

日本酒の品質を左右する重要なプロセスが「蒸し米」です。これは酒米を蒸気で加熱し、後の工程である「麹(こうじ)造り」や「酒母(しゅぼ)」に適した状態に整える作業を指します。今回、新たに導入される「甑(こしき)」と呼ばれる巨大な蒸し器は、なんと500キロリットルもの容量を誇ります。この最新設備にはセンサーが搭載されており、蒸し上げ中の温度データがリアルタイムでクラウド上に蓄積されていきます。まさに伝統工芸と先端テクノロジーの融合と言えるでしょう。

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職人の「至難の業」をデータで支える

これまでの蒸し作業は、ボイラーから送られる蒸気の量や湿度を複数のバルブで調整しなければならず、まさに職人芸の世界でした。一人の熟練者が1時間もつきっきりで監視する必要がありましたが、分単位のデータ抽出が可能になれば、その負担は劇的に軽減されます。SNS上でも「伝統を守るためのIT活用は素晴らしい」「地方の酒蔵が進化する姿に勇気をもらえる」といった、前向きな応援の声が続々と寄せられています。効率化によって生まれた時間は、さらなる品質向上へ充てられるはずです。

東酒造は、このIT投資によって昨年度比で5%の増産を見込んでいます。単なる省力化に留まらず、蓄積された膨大なデータを解析することで、これまでにない新しい味わいの日本酒を開発する狙いもあるそうです。「蒸し米で酒の味が決まる」という格言がある通り、原料の水分量を緻密にコントロールできれば、商品の多様化に拍車がかかるでしょう。投資額は400万から500万円にのぼる見通しですが、これは未来の日本酒市場を見据えた攻めの姿勢の現れだと私は感じます。

「量」から「質」へ。世界を魅了する神泉ブランド

現在の日本酒市場は、出荷量が全盛期の3分の1以下に落ち込む厳しい状況にあります。しかし、特定の基準を満たした「純米吟醸酒」などの特定名称酒は、逆に需要が伸びていることをご存知でしょうか。消費者のニーズは「安く大量に」から「高くても個性的で美味しいものを」という質重視の傾向へシフトしています。東祐輔社長は、現代の酒造りにおいて最も必要なのは「蔵の個性」であると断言します。その象徴が、海外向けブランド「神泉」の躍進です。

肉料理やフォアグラとのペアリングを意識した「純米吟醸旨口」は、日本酒度マイナス10という驚きの超甘口仕立てです。この革新的な一本は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2018」で最高金賞に輝き、国内の若い女性層からも熱い視線を浴びています。現在、売上の約15%を中国や米国、ドイツといった海外が占めており、2019年中には美食の街・パリでの試飲会も予定されています。小さな酒蔵が、その土地ならではの味を武器に世界へ羽ばたく姿は非常に痛快です。

160周年の節目に懸ける老舗のプライド

東酒造の敷地内にある茶室などは国の有形文化財に指定されており、大規模な増設が難しいという制約があります。しかし、彼らはそれをハンデとは捉えていません。限られたスペースの中で設備の更新を進め、2019年には年間雇用となる正社員を2名採用するなど、人材育成にも力を注いでいます。物理的な拡大ではなく、技術と人の力で需要に応えようとする誠実な経営スタイルには、編集者としても非常に好感を持ちます。文化を守りつつ変化を恐れない姿勢こそ、真の老舗の姿でしょう。

2020年には創業160周年という大きな節目を迎えます。現在、蔵の一部を改修して歴史や製造工程を伝えるギャラリーを準備中とのことで、ファンにとっては聖地巡礼の楽しみが増えそうですね。IoTによる精密なデータ管理と、160年続く伝統の技。この二つが掛け合わさることで、来たるアニバーサリーイヤーには一体どんな驚きの商品が登場するのでしょうか。石川県小松市から発信される日本酒の新しいスタンダードに、今後も目が離せそうにありません。

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