今から50年以上も前、1960年代に行われた国立科学博物館による北海道調査のエピソードは、現代の私たちにとっても驚きと興奮に満ちています。動物学者の今泉忠明氏が振り返る舞台は、日高山脈の深部に位置するペテガリ山荘です。当時の哺乳類調査班は、ネズミ捕りの罠やコウモリを捕獲するための「カスミ網」という、非常に細い糸で編まれた鳥獣捕獲用のネットを携えて山へ分け入りました。
大型動物を直接狙うわけではないため、彼らの装備自体はそれほど重いものではなかったようです。しかし、調査対象となる哺乳類の多くが夜間に活動する「夜行性」であるという事実が、研究者たちの生活リズムを狂わせ、独特の苦労を強いることになります。静まり返った山中で夜を徹して行われる作業は、常に野生の気配との隣り合わせだったに違いありません。
「ヒグマがいた!」一言で変わる山の空気と恐怖の夜間見回り
ある日の夕暮れ時、山頂付近から帰還した昆虫専門の研究者が放った「ヒグマがいた!」という一言が、キャンプ地の空気を一変させました。それまで平穏だった調査拠点には一気に緊張が走り、誰もが身の危険を意識せざるを得なくなります。日高山脈の深い自然の中では、人間はあくまで部外者に過ぎず、巨大な捕食者がすぐそばに潜んでいるという現実に直面した瞬間でした。
最も恐ろしかったのは、その夜に行わなければならない罠の見回り作業だったと今泉氏は回想しています。背丈を優に超えるほど生い茂ったクマザサをかき分け、その暗い奥底に仕掛けた罠を確認しに行く行為は、恐怖で身体が震えるほどの体験です。いつ茂みの向こうから巨体が現れるか分からない状況下での孤独な作業は、まさに命がけのフィールドワークだったといえるでしょう。
このエピソードに対し、SNS上では「学者の情熱が凄すぎる」「今の装備でも怖いのに、50年前なら尚更だ」といった、当時の過酷な環境に驚く声が上がっています。個人的な意見としては、こうした極限状態での調査が、現在の日本の動物学の基礎を築いたのだと深く敬服します。未知の恐怖に打ち勝ち、一歩ずつ自然の真実を解明しようとする科学者の執念こそが、この物語の真の主役なのです。
コメント