健康を守るために欠かせない「がん検診」ですが、実はその中身が世界基準から大きく乖離していることをご存知でしょうか。2019年11月23日、日本経済新聞の調査によって、全国の市区町村の約9割が、死亡率を下げるメリットが証明されていない「科学的根拠に乏しい検診」を実施しているという衝撃的な実態が明らかになりました。
本来、自治体が公費を投じて行う集団検診は、受診者の死亡率を確実に下げるという「利益」が、誤診や被曝といった「不利益」を上回る必要があります。しかし、現状では多くの自治体で、国際的な標準とは異なる検査が漫然と続けられています。SNS上でも「良かれと思って受けていたのにショック」「税金の無駄遣いではないか」といった不安や疑問の声が広がっています。
過剰診療を招く「PSA検査」と国際基準のズレ
特に問題視されているのが、前立腺がんの指標となる「PSA検査」です。これは血液中の特定のタンパク質を測定するものですが、2017年度のデータでは、なんと83%にあたる1438自治体が導入していました。前立腺がんは進行が非常に緩やかなケースが多く、見つけなくても寿命に影響しない「過剰診断」のリスクが高いことで知られています。
「過剰診断」とは、放置しても生命に別条がないがんを見つけてしまい、結果として不要な手術や放射線治療を招くことです。米国予防医学作業部会の指針によれば、検査を受けても死亡率に劇的な差は出ない一方で、手術による勃起障害や排尿障害などの合併症に苦しむ受診者が少なくありません。早期発見が常に正解とは限らないという事実は、もっと広く認識されるべきでしょう。
自治体に求められる「選択と集中」の勇気
現在、国立がん研究センターが科学的根拠を認めているのは、胃、大腸、肺、乳房、子宮頸部の5項目のみです。しかし、これらの推奨項目内であっても、35%の自治体が指針外の「超音波検査」を乳がん検診に採用するなど、独自の手法が目立ちます。背景には市民からの強い要望があるようですが、エビデンス(科学的根拠)を軽視した検診は、結果として税金の効率的な運用を妨げてしまいます。
東京都八王子市のように、根拠のある検診に絞り込む動きを見せる自治体も現れています。北欧や英国では、効果が証明された検査の受診率向上に注力することで、実際に死亡率を下げる成果を上げています。限られた財源を「安心感」という曖昧な指標ではなく、確実に命を救うための「正しい検査」へ集中させる舵取りが、今まさに日本の自治体にも求められているのです。
編集部が思う「賢い受診者」への一歩
編集部としては、検診を「受けるだけで安心」と考える段階から卒業すべきだと考えます。自治体が実施しているからといって、それが必ずしも自分にとって最善とは限りません。私たちは、提供される検査にどのようなリスクがあり、どのようなメリットがあるのかを自ら問い直す必要があります。エビデンスに基づいた賢い選択をすることが、自分自身の体と地域の財政の両方を守ることにつながるからです。
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