世界各国で、巨大IT企業が握るデータ保護や圧倒的な市場支配力に対する風当たりが強まっています。日本でもこうした流れを受け、2019年10月に「デジタル市場競争会議」が産声を上げました。この会議には閣僚や公正取引委員会のトップが集結し、新たなルール作りへ向けた熱を帯びた議論が本格的にスタートしています。
しかし、ここで大きな課題が浮き彫りになりました。それは、どれほど優れた規制ルールを制定したとしても、現場でそれを実際に運用し、企業の不正を審査する「専門家」が圧倒的に不足しているという現実です。巨大な壁に挑むための体制整備は、私たちの想像以上に深刻な局面を迎えているといえるでしょう。
SNS上では「ようやく日本も重い腰を上げた」と歓迎する声がある一方で、「ITに疎い役所に何ができるのか」「GAFAのような天才集団に太刀打ちできるはずがない」といった、執行能力を疑問視する厳しい意見も散見されます。こうした懸念は、決して的外れなものではないのかもしれません。
経済学者が導き出す「データの証拠」が勝敗を分ける
これからのIT規制において鍵となるのは、法的な解釈だけではありません。IT企業が「消費者に不利益を与えた」ことを証明するためには、膨大なデータを解析し、因果関係を科学的に立証するスキルが求められます。ここで重要になるのが、統計学を用いて経済事象を分析する「計量経済学」の専門知識です。
米国のグーグルをはじめとする「GAFA」は、すでに数多くの経済学者を擁する最強の分析チームを構築しています。彼らは自社に有利なデータを揃え、その分析結果を土台にして弁護士がロジックを組み立てるという、隙のない布陣で審査に臨んでくるはずです。日本のIT企業も、早晩この動きに追随するのは間違いないでしょう。
これに対し、日本の現状は極めて心もとない状況にあります。米国では連邦取引委員会と司法省を合わせ、150人近い経済学者が正規職員として最前線で戦っています。欧州委員会でも約30人の精鋭が分析を担っていますが、日本の公正取引委員会で博士号を持つ職員は、わずか2人にとどまっているのが実情なのです。
「仏作って魂入れず」にしないための国家戦略を
法曹資格を持つ職員が32人在籍していることと比較しても、データ分析を担う専門家の少なさは際立っています。もちろん、政府も手をこまねいているわけではありません。経済学博士の公募や職員の海外派遣など、地道な育成努力は続けられています。しかし、デジタル経済の進化スピードは、こうした体制整備を遥かに上回っています。
もし人材不足によって誤った判断や不十分な審査が続けば、日本経済の未来に暗い影を落とすことになりかねません。私は、単なる法律の強化だけでなく、民間の高度な人材を柔軟に登用できる給与体系や組織の抜本的な改革が必要だと確信しています。国家の威信をかけたルール作りを無駄にしてはいけません。
せっかく立派な仏像(規制ルール)を作っても、そこに魂(運用能力)が宿らなければ意味を成さないでしょう。2019年11月15日現在、日本が真のデジタル先進国として自律するためには、データ分析の専門家を育成し、厚遇する大きな議論が不可欠です。政府には、一刻も早い「戦える体制」の構築を強く期待します。
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