2019年11月14日、世界のビジネスリーダーが集う「日経フォーラム世界経営者会議」にて、キリンホールディングスの磯崎功典社長が登壇しました。激動の時代において、伝統ある酒類メーカーがどのような進化を遂げるべきか、その熱いビジョンが語られています。ネット上では「ビール会社が薬を作る意外性」や「環境問題への本気度」に高い関心が寄せられているようです。
現在、酒類業界は大きな転換点を迎えています。世界保健機関(WHO)ではアルコールの規制に関する議論が加速しており、世界のトップ経営者たちの間でも危機感が共有されている状況です。磯崎社長は、一部で飲酒が健康に悪影響を及ぼしている事実を真摯に受け止め、適正飲酒の啓発や、ノンアルコール飲料の拡充に注力する方針を示しました。
ビール造りの技術が難病を救う?ライフサイエンスへの挑戦
キリンの強みは、単なる飲料製造に留まりません。1980年代からビール製造で培った「発酵技術」を応用し、ライフサイエンス分野、つまり生命科学を用いた事業展開を本格化させてきた歴史があります。この技術の結晶とも言えるのが、キリンビールの研究員が実用化にこぎつけた希少疾患の治療薬「クリースビータ」でしょう。
ここで解説しておきたい専門用語が「ライフサイエンス」です。これは生物が持つ複雑な機能を解明し、健康や医療、環境に応用する科学技術の総称を指します。磯崎社長は、川上から川下まで網羅した自社の技術力が、必ずや社会のどこかで役立つはずだという強い信念を持っています。ビール会社から薬が生まれるという構図は、非常にクリエイティブです。
さらに、キリンは「飲食料」と「医薬」の二本柱を融合させた健康領域を、次なる成長のエンジンに据えています。その象徴が、資本業務提携を発表したファンケルとの協力体制です。自社開発の健康素材をファンケルに提供するなど、両社のシナジー(相乗効果)を最大化させ、ファンケルの事業規模を早期に年間2000億円まで引き上げる計画を明かしました。
磯崎社長が強調したのは、変化の激しい市場における「スピード感」です。新しいプロジェクトに対して、3年から5年という明確な期限を設け、芽が出ないと判断すれば撤退も辞さないという厳しい姿勢を見せています。決断の速さと資源の集中こそが、現代のリーダーに求められる資質であると言えるのではないでしょうか。
プラスチック問題への責任と「循環型社会」への布石
環境問題、特に海洋汚染への対策も急務となっています。これまで日本のペットボトルは廃プラスチックとして東南アジアへ輸出され、カーペットの材料などに再利用されてきました。しかし、こうした輸出モデルは限界を迎えつつあります。磯崎社長は、国内で資源を循環させる仕組みの構築を急いでいると語りました。
課題となるのは、再生プロセスにかかるコストの扱いです。環境負荷を減らすためのコストをどのように製品価格に反映させるのか、そして消費者の理解をどう得るのかが焦点となります。SNSでは「環境のためなら多少の値上げは許容できる」という声がある一方で、家計への影響を懸念する意見も散見され、議論が分かれるところでしょう。
私個人としては、キリンのこの多角的な戦略を高く評価します。単に酒を売るだけでなく、人々の健康や地球の未来に責任を持つ姿勢は、これからの企業価値を決める重要な要素です。ビール事業で磨いた「発酵」という武器で、医療や環境の壁を突破していく姿は、多くの日本企業にとって勇気を与えるモデルケースになるはずです。
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