がん検診と聞くと「早めに見つければ安心」というイメージを抱きがちですが、実は医学の世界では少し異なる視点が重要視されています。東京大学病院の中川恵一准教授によれば、検診の真の目的は単なる早期発見ではなく、あくまで「がんによる死亡を減らすこと」にあります。ところが、2019年11月20日時点の知見では、見つける必要のないがんを見つけてしまう「過剰診断」という課題が浮き彫りになっているのです。
特に高齢の男性に多い前立腺がんは、その傾向が顕著だと言えるでしょう。国立がん研究センターが2019年8月に発表したデータによると、がん全体の5年生存率が66.1%であるのに対し、前立腺がんは驚異の98.6%を記録しました。驚くべきことに、初期段階であるステージ1から、手術が困難なステージ3に至るまで、5年生存率はほぼ100%に達しています。
SNS上でも「前立腺がんは進行が遅いと聞くけれど、これほど生存率が高いのか」と驚きの声が上がっています。10年生存率も95.7%と極めて高く、中川准教授はこれを「不治の病」ならぬ「不死の病」と表現しています。命を落とすリスクが極めて低いからこそ、あえて早期に発見し、体に負担のかかる治療を行うことが本当にプラスになるのかという議論が、今まさに熱を帯びているのです。
数値で見る検診のリスクとリターン
ここで、血液検査でがんの可能性を調べる「PSA(前立腺特異抗原)」検査の現実的な予測値を見てみましょう。PSAとは、前立腺から分泌されるタンパク質の一種で、がんや炎症があると数値が上昇する「腫瘍マーカー」のことです。1000人が検診を受けた場合、実際に死亡を回避できるのはわずか1人。一方で、治療による副作用、例えば排尿のトラブルや勃起障害に悩まされる人は30人から40人にものぼります。
さらに深刻な合併症として、重い心血管系の障害や血栓症が発生するリスクも無視できません。ネット上では「検診を受けるのが怖くなった」という不安も散見されますが、これは検診そのものを否定するのではなく、適切な選択肢を知ることが大切だというメッセージです。過剰な治療を避けるために、現在の国際的な「標準治療」として普及しているのが「監視療法」と呼ばれるアプローチです。
監視療法とは、すぐには手術や放射線を行わず、定期的な検査で様子を見る方法を指します。3ヶ月から6ヶ月ごとの触診やPSA検査、数年おきの組織検査(生検)を行い、悪化の兆しがなければ治療を控えます。最近では、体に針を刺す生検の代わりにMRI(磁気共鳴画像装置)を用いるケースも増えており、10年後の生存率は手術を受けた場合と大差ないことが欧米の研究でも証明されています。
私自身の考えとしては、最新のテクノロジーを駆使して「本当に治療が必要な悪質なタイプ」だけを、いかに低侵襲で見極めるかが今後の医療の鍵になると感じています。患者さん自身のQOL(生活の質)を守りつつ、科学的なデータに基づいて「何もしない勇気」を持つことも、現代のがんとの向き合い方と言えるでしょう。これからの医療現場には、より簡便で精度の高い選別法が登場することを切に願っています。
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