「がんは見つけ次第、すぐに治療すべきもの」という考え方が一般的ですが、実はすべてのがんが生命を脅かすわけではありません。特に甲状腺がんは非常に特殊な性質を持っており、高齢者の多くが自覚症状のないまま体内に抱えていると言われるほどです。こうした背景から、現在、安易な検診の拡大に対して専門家から慎重な声が上がっているのはご存知でしょうか。
お隣の韓国では過去20年間で、甲状腺がんの発見数が約15倍という驚異的な伸びを記録しました。しかし、不思議なことにそれによる死亡者数はほとんど変化していません。これは、本来であれば生涯にわたって悪影響を及ぼさないはずの「大人しいがん」まで見つけ出してしまう、いわゆる「過剰診断」が起きていることを如実に物語っています。
過剰診断とは、医学的に治療が必要ない状態であるにもかかわらず、検査の精度が上がりすぎたために、病気として診断されてしまう現象を指します。ネット上では「見つかって良かった」という安堵の声がある一方で、「手術の必要が本当にあるのか」といった不安の声も渦巻いており、現代医療が抱える大きな矛盾の一つとして議論の的となっています。
一度がんと宣告されれば、患者さんの精神的な負担は計り知れません。もしも甲状腺をすべて摘出する手術を受ければ、その後の人生でずっとホルモン剤を服用し続ける不自由を強いられます。命に別状がないケースであれば、検診を受けること自体のデメリットの方が上回ってしまう可能性も否定できないのが、現在の医療現場のリアルな視点です。
国際機関が示す福島での調査と検診のあり方
2011年の東日本大震災以降、福島県では子供たちの健康を守るために大規模な検査が行われてきました。これまでに200人を超える子供にがんが見つかっていますが、多くの専門家はこれを放射線の影響ではなく、潜在的に存在していたものを掘り起こした結果だと分析しています。ここでも、韓国と同様の過剰診断の構図が指摘されているのです。
こうした状況を鑑み、WHO(世界保健機関)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、2018年にある提言を公表しました。世界から集まった14人の専門家チームによる最新の科学的知見に基づいたこの勧告では、原子力災害後であっても、住民全員を対象とした一律の甲状腺検査は実施すべきではないと明記されています。
IARCが提言の中で重視しているのは、被曝のリスクが極めて高い個人に絞ったモニタリングです。具体的には、甲状腺への被曝線量が100から500ミリシーベルトを超えるようなケースを指します。しかし、福島の子供たちでこの数値に達する例はほぼ見当たらないため、国際基準に照らせば「一斉検査は推奨されない」という結論になるでしょう。
編集者としての私見ですが、私たちは「早期発見」という言葉の響きに盲目的になりがちです。しかし、医療の目的はあくまで健やかな人生を送ることにあります。最新の科学が教える「あえて検査をしない」という選択肢は、決して放置ではなく、無駄な苦痛から自分や家族を守るための賢明な防衛策であると捉えるべきではないでしょうか。
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