2019年9月20日、大阪のランドマークである大丸心斎橋店本館が、建て替え工事を終え、いよいよ新装オープンを迎えます。J.フロントリテイリングは6月11日、この旗艦店の詳細を発表し、単なる高級品の集積地ではない、新しい形の商業施設を提示しました。同社は、百貨店と専門店を融合させた「複合施設」への転換を図り、好調な訪日外国人客(インバウンド)を取り込むと同時に、「体験」を重視する国内の消費者の心も掴みたい考えです。
J.フロントの山本良一社長は、大阪市内での記者会見で、「単に高級なモノを集めるだけでなく、世界観やアートを提供することで、百貨店の進化形を示したい」と、強い意気込みを語りました。投資額はおよそ370億円にのぼり、売り場面積は旧店舗に比べて約3割増の約4万平方メートルとなる計画です。約370店舗が出店し、うち37店舗は関西地区初登場となるブランドが含まれるということで、新規性と話題性は十分でしょう。
なかでも注目は、大幅に拡充される食料品フロアです。地下2階から地下1階の大部分が食品エリアとなり、従来の2倍の広さになるそうです。特に、ソムリエ(ワインなどの飲料に関する専門知識を持つ資格保持者)が厳選した飲み物を提供するサービスや、各店舗で購入した食品をその場で楽しめる「イートイン」スペースの充実が図られています。これは、デパ地下が「モノを買う」場から「食を体験する」場へと進化する流れを象徴しており、日常的な来店を促す戦略の一環だと考えられます。
今回のリニューアルでは、百貨店では珍しい海外ブランドを誘致するため、出店者にブランドの個性を表現しやすい環境を提供する「定期賃貸借」の専門店が増やされました。全店舗の約6割が著名ブランドの専門店で占められることとなり、心斎橋という立地を活かした、高級かつ個性的なラインナップが期待できます。また、隣接する北館には、2021年春頃を目処に、グループ会社であるパルコが入居し、本館と一体となって運営される予定ですから、将来的な集客力はさらに高まるでしょう。
日本百貨店業界の課題と「百貨店進化形」の必要性
日本百貨店協会によると、2018年の免税売上高は前年比26%増の3396億円と過去最高を記録しました。しかし、2020年の東京五輪や2025年の大阪万博が終了した後に、免税売上高が減少に転じるという懸念も出てきています。こうした背景から、J.フロントリテイリングだけでなく、三越伊勢丹や高島屋といった大手各社は、国内市場のテコ入れを急いでいる状況です。
三越伊勢丹は、2019年2月に化粧品専門のECサイトを開設し、百貨店の強みである資生堂やクリスチャン・ディオールなどのハイブランドに加え、これまで取り扱いが少なかったカジュアルで低価格な商品も順次拡充しています。また、オーダー事業では、ワイシャツやスーツをインターネット経由で注文できるサービスを年内にも開始し、さらに顧客の買い物全般をサポートするコンシェルジュサービスを大型店で展開するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)と「おもてなし」の両面で顧客接点を強化しているのが分かります。
一方、高島屋も、今後2~3年をかけて旗艦店である横浜店などにおいて食料品コーナーの拡充を進めていく方針です。これは、大丸心斎橋店と同様、日々の生活に密着した「食」の強化によって来店頻度を高める、という戦略的狙いがあるのでしょう。この一連の動きは、日本の百貨店が、かつての「ハレの日」に利用する特別な場所から、海外の有名モールや、生活の「ケの日」を支える近隣商業施設とも競合する、「体験型・日常利用型」の複合施設へと、大きな変革期を迎えていることを示しています。
SNSでの反響と編集者の見解
この大丸心斎橋店の新装開業のニュースは、SNSでも大きな話題となっています。「心斎橋に新しい風が吹く!」「デパ地下が2倍とか絶対行く」「食べ歩きが充実しそう」といった、特に食料品フロアの拡充に対する期待の声が多く見受けられました。これは、日本の消費者が単に「モノ」よりも「食体験」や「空間価値」に魅力を感じていることの裏付けとも言えるでしょう。
編集者としての私の見解は、大丸心斎橋店が打ち出した「百貨店の進化形」というコンセプトは、間違いなく今後の日本の商業施設のあるべき姿を示していると考えます。従来の百貨店は、画一的なフロア構成とブランド展開が顧客の期待値を超えられなくなりつつありました。しかし、今回のリニューアルは、「アート」や「世界観」を重視し、ブランドの個性を引き出す定期賃貸借(期間を定めて貸し出す方式)の専門店を増やすことで、顧客にとって新鮮な「発見」と「感動」をもたらす空間を創出しています。
特に、大阪という、新旧の文化が混ざり合い、独自の賑わいを持つ都市において、この大胆な変革は成功する可能性が高いと見ています。訪日外国人客の勢いが衰える可能性も指摘される中、国内客に対して「日常のワンランク上の体験」を提供できる施設こそが、これからの時代を勝ち抜く鍵となるでしょう。大丸心斎橋店が、どのように大阪、ひいては関西の消費行動に影響を与えるのか、2019年9月20日のグランドオープンが今から大変楽しみです。
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