住宅市場の縮小という厳しい現実を前に、積水ハウスが新たなビジネスモデルとして「サービスで収益を上げる」未来を模索していることが、2019年5月28日の記事で報じられました。その中核をなすのが、情報の改ざんが極めて難しく、安全性の高さが特徴のブロックチェーン(分散型台帳)技術の活用です。同社は、この技術を基盤として、KDDI(au)や日立製作所といった異業種のリーディングカンパニーと連携し、賃貸住宅の契約手続きの簡略化に向けた実証実験に着手したといいます。
今回の連携では、日立製作所が安全なデータ共有のためのプラットフォーム、つまり基盤を構築し、その上でブロックチェーン技術が利用されます。積水ハウスとKDDIがそれぞれ保有する本人確認情報をセキュアに連携させることが、この実証実験の肝です。例えば、auユーザーが積水ハウスの賃貸アパート「シャーメゾン」の内覧を申し込む際、ユーザーの同意を得た上で、KDDIが持つ携帯電話の契約者情報に基づき申し込みを受け付けることが可能となります。
この相互に情報を補完し合う仕組みは、賃貸契約だけでなく、引っ越しに伴う電気、ガス、通信といったライフラインの申し込みや、住所変更手続きといった煩雑な一連の作業を「ワンス トップ」で提供することを目指した検証も行われます。これは、顧客側にとって、引っ越しという大きなイベントのたびに、賃貸住宅や各サービス提供企業ごとに本人確認書類を提出し、多くの書類に記入するといった面倒な手間から解放されるという、計り知れないメリットがあるでしょう。
積水ハウス側にとっても、この仕組みはメリットがあります。仲介特約店からFAXで受け取った情報をパソコンに手入力するような、非効率な業務の一部簡略化に繋がるはずです。同社IT業務部の上田和巳部長は、「個人情報の共有は競争する分野ではない」と述べ、将来的には不動産分野の同業他社やKDDI以外の通信会社とも提携したいという意向を示されています。このように、オープンな基盤であるブロックチェーンの特性を活かし、業界全体の利便性向上を目指す姿勢は、私としても非常に建設的で評価できると考えます。
また、積水ハウスは、以前から仮想通貨交換大手のビットフライヤーとも協力し、アパートの管理にブロックチェーン技術を活用する取り組みを進めてきました。この記事が書かれた2019年度中には、首都圏でアプリを通じて賃貸契約を申し込めるサービスの開始を目指しており、上田部長は「ホテルを予約するように簡単に賃貸契約できるようにしたい」と、その目標を語っておられます。こうした動きは、当時のSNSなどでも「引っ越しの手続きが楽になるのは最高だ」「いよいよブロックチェーンが身近になる」といった期待感を示す反響が多く寄せられていました。
この新しいビジネスモデルへの意欲は、住宅の「売り切り」から脱却し、住生活にかかわるサービスを提供することで安定的な収益を上げるという、企業変革の大きな一歩です。その象徴的な事例として、2019年1月に米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES」で、仲井嘉浩社長が発表した「プラットフォームハウス構想」があります。これは、NECや日立、慶応大学病院などと組み、非接触のセンシング技術を使って住人の脳卒中などの異変を感知し、外部機関へ通報する戸建て住宅を、2020年春に発売するという計画です。
ブロックチェーン技術は、その高い安全性に加え、異業種と連携しやすいオープンな基盤であるという特徴を持っています。これは、従来の「世帯」単位ではなく「個人」単位でのきめ細かな顧客情報把握を可能にし、新しいサービス開発に非常に適していると言えるでしょう。積水ハウスは、まず入居者の満足度を高めるサービスを開発することで、その基盤を固め、将来的に「サービスで稼ぐ会社」という、住宅メーカーの新たな企業像を確立していくことを目指しておられるのです。
コメント