トランプ政権の関税リスクに挑む日本製鉄!かつての宿敵テルニウムと手を組みメキシコ市場の荒波を越える

2019年12月03日、世界の鉄鋼業界が注視するメキシコで、日本製鉄が大きな転換点を迎えています。隣国アメリカのトランプ政権が掲げる不法移民対策や保護貿易主義の波が、安価な労働力と立地の良さを武器に成長してきたメキシコ市場を直撃しているからです。SNS上では「トランプ氏の一言で関税が変わるリスクは予測不能」「製造業の地政学リスクがこれほど顕在化するとは」といった、先行きの不透明さを懸念する声が広がっています。

こうした逆風の中、日本製鉄の橋本英二社長が2019年10月中旬に向かったのは、メキシコ北部モンテレイ市でした。そこで再会したのは、アルゼンチンの鉄鋼大手テチント・グループを率いるパオロ・ロッカ会長です。両者はかつて、ブラジルの鉄鋼大手ウジミナスの経営権を巡って3年半にも及ぶ壮絶な訴訟合戦を繰り広げた、いわば「宿敵」とも呼べる存在でした。

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過去の確執を乗り越え結成された強力タッグ

激しい対立を経て、現在は「ウジミナス」の経営安定という共通目標で結ばれた両社は、メキシコでもその協業関係を深化させています。その象徴が、共同出資によって設立された自動車鋼板工場「テニガル」です。ここでは、自動車の燃費向上と安全性を両立させるために欠かせない「高張力鋼板(ハイテン)」が製造されています。ハイテンとは、薄くても非常に高い強度を持つ鋼材のことで、現代の自動車製造には不可欠なハイテク素材です。

テニガルの工場内には、日本の君津製鉄所と同じ最新鋭のラインが並び、徹底した「日鉄流」の技術指導が行われています。2018年の生産実績は年40万トンの設計能力を15%も上回るフル稼働状態で、日系のみならず欧州の自動車メーカーからも絶大な信頼を寄せられています。かつての敵同士が、今やメキシコの自動車産業を支える最強のパートナーとして、一つの屋根の下で汗を流しているのです。

しかし、この蜜月関係の前に「トランプ・リスク」という巨大な壁が立ちはだかります。まず懸念されるのは、突如として発動される輸入関税です。2018年6月からの1年間、メキシコ産の鉄鋼には25%の関税が課されました。さらに2019年5月には全輸入品への関税賦課が示唆されるなど、トランプ氏の言動一つでビジネスの前提が根底から覆される危うさを孕んでいます。

新貿易協定の衝撃と「域内調達」の高いハードル

さらに深刻なのが、2020年にも発効が予定されているNAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新たな貿易協定の影響です。新ルールでは、北米内で関税ゼロの恩恵を受ける条件として、鉄鋼の「域内調達率70%以上」が求められます。現在、テニガルで使用する母材(加工前の鉄板)の9割以上は日本から輸入されており、このままでは「域外産」と見なされて関税の対象になる恐れがあるのです。

母材の現地調達に切り替えようにも、メキシコ国内で高品質なハイテンの材料を作れる工場は限られています。テルニウム側では母材となる「熱延鋼板(高温で圧延した鋼板)」の工場を建設中ですが、日本産と同等の品質を確保できるかは未知数です。日鉄にとって、自社のアイデンティティである「品質」を守りつつ、現地のルールに適応するという、極めて難しい舵取りが求められています。

市場環境も楽観視はできません。2020年に500万台に達すると予測されていたメキシコの自動車生産は、米中摩擦の長期化もあり、足元では400万台弱で足踏みしています。一部の自動車メーカーは生産能力の縮小に動いていますが、鉄鋼メーカーは巨大な設備投資を伴うため、簡単に撤退や移転はできません。この「動けないリスク」こそが、素材メーカーが直面する真の厳しさと言えるでしょう。

編集者の視点:試される「信頼」の真価

筆者は、この状況こそが日本製鉄の底力を証明する好機であると考えます。関税が2.5%程度であれば、品質の低い他社製品に切り替えるリスクを冒すより、多少のコストを払ってでも「日鉄品質」を選びたいというメーカーは多いはずです。テニガルの鎌田俊二取締役が語る「6年間で積み上げた信頼の訴求」という言葉には、技術力への絶対的な自負が込められています。

2019年12月末にはライバルのJFEスチールもメキシコで新工場を稼働させ、競争は一段と激しさを増します。しかし、激動の時代にこそ、かつての仇敵と握手を交わし、現場に根を張る日鉄のしなやかさは輝くのではないでしょうか。世界経済のルールが書き換えられる中で、技術という普遍的な価値を武器に戦う彼らの挑戦から、日本の製造業が生き残るためのヒントが見えてくるはずです。

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