2019年12月05日、世界遺産登録から20年という節目を迎えた日光がいま、大きな転換期に立たされています。東京からわずか2時間というアクセスの良さは大きな武器ですが、一方で多くの外国人観光客にとって、日光は「ふらっと立ち寄れる日帰りスポット」として定着してしまいました。SNSでも「東照宮は綺麗だけど、夜は東京に戻って遊ぶ」といった声が散見され、観光地としてのポテンシャルを活かしきれていない現状が浮き彫りになっています。
データを見るとその傾向はさらに顕著です。世界遺産登録の1999年を基準とすると、2018年の観光客数は2割増えた一方で、宿泊客数は逆に2割も減少しています。JR宇都宮駅では、朝の時間帯に日光線へ乗り込む訪日客の姿が日常の風景となりました。しかし、彼らの目的は豪華な装飾で知られる「陽明門」や「三猿」を撮影することに集中しており、そのまま宿泊せずに都内へ引き返してしまう、いわゆる「立ち寄り型観光」が主流なのです。
「見る」から「体験する」へ、奥日光の自然が鍵を握る
「東照宮をサブに、自然をメインに据えるべきだ」という大胆な提言も飛び出しています。訪日客誘致の専門家によれば、写真を撮って満足してしまう社寺見学だけでなく、中禅寺湖などの豊かな自然や温泉を強調することが、滞在時間を延ばす鍵になるそうです。2019年4月に開業した「NIKKO BASE」は、まさにその先駆けといえる存在でしょう。サイクリングや、雪原を歩くための「スノーシュー」体験など、アクティビティを充実させています。
スノーシューとは、深い雪の上でも足が沈まないように装着する西洋版のかんじきのことです。こうした「体験型観光」は、単なる見学では味わえない地域の魅力を肌で感じさせてくれます。また、訪日客のニーズに合わせた夜間営業の飲食店も増え始めています。2018年末にオープンした「NIKKO DINING AO」や、2019年9月に宿坊を改装して誕生した「妙月坊」などは、夜も栃木の絶品食材を楽しめる場所として注目を集めています。
熊野古道に学ぶ、世界に選ばれる「滞在型」への道
日光が目指すべき先行事例として、和歌山県の熊野古道が挙げられます。彼らはターゲットを欧米の個人旅行者に絞り、「歩く旅」という明確なコンセプトを打ち出すことで、世界中から巡礼者を呼び込むことに成功しました。対する日光市も、2016年度に観光戦略を練る司令塔である「DMO」を設立しましたが、まだ目立った成果は見えていません。DMOとは、地域全体の観光を戦略的に動かす「観光地経営組織」を指す重要な役割のことです。
「黙っていても客が来る」という、これまでの成功体験が、新しい挑戦への足かせになっていた側面もあるかもしれません。しかし、観光客の「量」だけでなく「質」を重視するなら、宿泊を通じた地域経済の活性化は避けて通れない課題です。私自身、日光は単なる通過点にするにはあまりにも惜しい、深い歴史と自然が共生する場所だと感じます。この2019年という年が、日光が「24時間楽しめる観光地」へと進化する本当の始まりになることを期待しています。
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