【北海道の美】曲子光男が描く「初雪」の層雲峡|幻想的な柱状節理と郷愁の色彩に迫る

北海道の大地に冬の訪れを告げる瞬間を、これほどまでに優美に描き出した作品があるでしょうか。北海道立三岸好太郎美術館の土岐美由紀副館長が紹介するのは、日本画家・曲子光男(まげし・みつお)による名作「初雪」です。2019年12月6日に公開されたこの解説は、大雪山国立公園の険しい自然と、画家の温かな眼差しが交差する独自の魅力を伝えています。

画面いっぱいに広がるのは、北海道北部が誇る大峡谷・層雲峡(そううんきょう)の圧倒的な風景です。特筆すべきは「柱状節理(ちゅうじょうせつり)」と呼ばれる、自然が生み出した幾何学的な造形でしょう。これは約3万年前の火山噴火による火砕流が冷却される過程で、岩が規則的に割れてできた柱状の岩壁を指します。本来は鋭利で険しいこの岩肌が、曲子の手によって魔法のように変化しています。

SNS上では「層雲峡の険しさが、まるで夢の中の景色のように柔らかい」「冷たいはずの雪に温もりを感じる」といった、その独特な質感に驚く声が寄せられています。樹々の間に広がる凹凸には薄紫の影が宿り、まるでソフトフォーカスをかけた映像のような幻想的な雰囲気を醸し出しているのです。本来なら主役級の存在感を放つ名瀑「銀河の滝」さえも、この作品では岩壁を引き立てる脇役に徹しています。

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北の大地への郷愁が育んだ、柔和な雪の表現

作者である曲子光男は、1935年に20歳という若さで京都画壇の巨匠・堂本印象に師事しました。戦後は日展を舞台に活躍し、初期には師譲りの幾何学的な構成を追求しましたが、次第に写実をベースとした深遠な自然描写へと傾倒していきます。特に晩年の雪景色は秀逸で、多くの美術ファンを魅了し続けています。その表現の根底には、彼自身の数奇な生い立ちが深く関わっているのでしょう。

曲子は北海道南西部の蘭越町(らんこしちょう)で生まれ育ちました。ここは道内でも屈指の豪雪地帯として知られています。幼少期に父を亡くし、石川県や京都へと移り住んだ彼にとって、白銀の世界は遠い故郷の記憶そのものだったのかもしれません。1990年に制作されたこの「初雪」に漂う、静謐でありながらどこか包み込むような優しさは、厳しい自然に対する敬意と郷愁が結びついた結果と言えるでしょう。

大作となる本作(203.6×158.5センチ)を前にすると、ぼたん雪のような淡い輝きが、鑑賞者を静かに深い思索へと誘います。冷徹な写実を超え、画家の精神性が投影された「色合い」こそが、私たちの心に直接語りかけてくる理由ではないでしょうか。北海道立近代美術館に収蔵されているこの名品は、冬の厳しさを知る者だけが描ける、至高の情景と言っても過言ではありません。

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