私たちの街のあちこちで見かける調剤薬局が、今まさに大きな転換期を迎えています。2019年12月06日現在、個人経営の中小薬局が大手チェーンやドラッグストアに事業を譲渡する「M&A(合併・買収)」の動きが加速しているのです。厚生労働省の調査によれば、2018年度末の店舗数は5万9613店と過去最多を更新しましたが、その裏側で、専門仲介のCBパートナーズが手がけた成約件数も前年度比5割増という驚異的な伸びを見せています。
かつて、薬局経営は「病院の隣に店を構えれば安泰」と言われるほど収益モデルが安定していました。これは1980年代後半から本格化した「医薬分業」という仕組みが背景にあります。医薬分業とは、医師が診察して処方箋を出し、薬剤師がそれに基づき薬を調剤するという役割分担のことです。病院側には処方箋を外に出すことで収益が増える仕組みが整えられたため、病院の門前に次々と薬局が誕生し、1店舗で年間売上高1億円を叩き出す例も珍しくありませんでした。
深刻な薬剤師不足がオーナーを追い詰める
しかし、現代の薬局経営者が直面しているのは、そんな黄金時代の終焉です。CBパートナーズの井上陽平社長によれば、譲渡を希望する最大の理由は「薬剤師の深刻な不足」にあります。薬局は国家資格を持つ薬剤師がいなければ1日も営業できませんが、特に地方では人材の争奪戦が激化しています。SNSなどの口コミを見ても、一人で膨大な処方箋を捌かなければならない現場の疲弊感は凄まじく、労働環境の改善を求めて大手の傘下に入ることを選ぶオーナーが後を絶ちません。
また、国の財政を圧迫する医療費の抑制も、経営のハードルを上げています。薬局の収益源である「薬価(国が定める医療用医薬品の公定価格)」は、2年に一度の改定ごとに引き下げられる傾向にあります。2020年春にも報酬改定が控えており、これまでのように「仕入れ値と販売価格の差」で利益を出すことが難しくなっています。単に薬を渡すだけの場所から、より高度なサービスを提供する場所への変革が迫られているのです。
2025年に向けた「かかりつけ薬局」への変革
厚生労働省は、2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」にするという高い目標を掲げています。これは、24時間体制の相談受付や在宅医療への対応、複数の病院から出される薬の飲み合わせチェックなど、地域医療に深く食い込む機能を備えた薬局のことです。しかし、小規模な店舗が自力でこれらすべての機能を備えるのは至難の業でしょう。ネット上でも「夜間対応まで個人店でやるのは無理がある」といった、現実的な壁を指摘する声が多く上がっています。
大手企業側も、かつては何でも買い取る勢いでしたが、現在は「年間売上高が1億5000万円以上」といった厳しい基準を設けるようになっています。経営状態が悪化してからでは買い手がつかないため、余力があるうちに譲渡を決断する賢明なオーナーが増えているのが2019年現在のリアルな状況です。一方で、あえて「一国一城の主」として地域貢献を目指す若手薬剤師の新規開局も増えており、二極化が進んでいると言えます。
私自身の見解としては、この淘汰の波は単なる弱肉強食ではなく、患者の利便性と安全性を高めるための「質の向上」に向けたプロセスだと考えています。大手のような効率化は難しくとも、地域に根ざした「在宅医療」などの強みを磨き上げることが、中小薬局が単独で生き残る唯一の希望となるはずです。薬剤師という専門職が、数字に追われるのではなく、患者に寄り添える環境が整うことを切に願います。
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