2019年5月、東京・表参道の中心地に誕生した「THE SALONS(ザ・サロンズ)」が、美容業界だけでなく商業施設運営者の間でも大きな話題を呼んでいます。ここは、ヘアカットやネイル、エステなど、美に関するスペシャリストたちが1フロアに集結した全く新しい形態の「美容モール」です。
かつては、髪を切った後に別の場所にあるネイルサロンへ移動するといった手間がありましたが、ここでは1日で全身のケアを完結させることが可能です。利用者からも「移動の負担がなく、1日を美容のために有効活用できる」と、その利便性の高さがSNSを中心に高く評価されています。
カリスマを支える「美容師ファースト」な仕組みの正体
この施設の最大の特徴は、入居する10のショップすべてが個人事業主、いわゆる「カリスマ」と呼ばれる実力派たちである点です。運営元のThe Salons Japanは、代表の清水秀仁氏自身が美容師出身ということもあり、徹底した「美容師ファースト」の姿勢を貫いています。
特筆すべきは、2019年11月15日現在において画期的とされる賃料システムです。一般的な商業施設で採用される「歩合制(売上連動型賃料)」ではなく、月額26万円からの「固定賃料制」を採用しています。これにより、頑張って売上を上げた分だけ、ダイレクトに技術者の手元に収益が残る仕組みが整えられました。
さらに、光熱費やタオルのレンタル代といった煩雑な事務作業も月額料金に含まれています。技術者は、本来の仕事である接客と施術に100%集中できるのです。こうした環境が、独立を夢見ながらも資金や経営ノウハウの壁に突き当たっていた若手実力者たちの背中を強力に後押ししています。
商業施設の救世主?「同質化」を打破する新たな集客の柱
昨今の大型ショッピングセンターや百貨店が抱える共通の悩みは、どこの施設も似たようなブランドばかりが並ぶ「店舗の同質化」です。しかし、この美容モールは「店」ではなく「人」に顧客がつくため、他施設との明確な差別化が可能になります。
2019年12月上旬には、早くも東京・銀座に2号店のオープンを控えています。銀座店も表参道と同様に、高い美意識を持つ顧客層から安定した支持を得ることが確実視されており、不動産業界からも熱い視線が注がれています。百貨店担当者からは「スタイリストが退職すると顧客もいなくなるリスクを回避できる」と、このモデルへの期待の声が上がっています。
私個人の意見としても、この「個」の力を最大化させるプラットフォームは、今後の日本における働き方の標準になると確信しています。組織に依存せず、実力のある個人が適切なコストで勝負できる場があることは、美容業界全体の健全な発展に寄与するでしょう。
広がる美の拠点、地方都市への展開と今後のビジョン
運営チームは今後、大阪や福岡といった地方都市への進出も計画しています。厚生労働省の調査によれば、全国の美容師数は53万人を超え、美容室の数はコンビニエンスストアを大きく上回る激戦区です。その中で、2019年1月から10月までの美容院の倒産件数が過去最高水準に達しているという厳しい現実もあります。
清水社長は、単なる場所の提供に留まらず、今後は美容師専用のスマートフォンアプリのリリースや、経営セミナーの開催を通じて「独立支援のコンサルタント」としての役割を強めていく方針です。まさに、美容師がプロフェッショナルとして自立するための「インフラ」になろうとしています。
シネマコンプレックスやフードコートに続く、商業施設の次なる「キラーテナント(高い集客力を持つ主要店舗)」として、美容モールが全国各地で日常の風景になる日は、そう遠くない将来にやってくるでしょう。
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