私たちが普段目にしている「黒」という色は、実はわずかに光を反射しています。しかし、今まさに世界を驚かせているのは、光をほぼ100%飲み込んでしまう「究極の暗黒物質」の誕生です。この新材料は、単なる色の領域を超え、産業界に革命を起こそうとしています。
2019年9月にドイツで開催されたフランクフルトモーターショーにて、BMWが公開した「X6」の特別モデルは、まさに異様な存在感を放っていました。全身を漆黒の塗料で覆われたその車体は、起伏や造形が判別できず、SNSでも「夜道で見たら消えるのでは?」と大きな話題を呼んでいます。
この驚異的な黒さを実現したのは、英国のサリーナノシステムズ社が開発した技術です。彼らは「カーボンナノチューブ」と呼ばれる、炭素原子が網目状の筒になったナノ素材を駆使しました。この筒を垂直に並べることで、光を内部に閉じ込めて逃がさない構造を作り上げているのです。
しかし、従来のカーボンナノチューブによる塗装は、非常に繊細で触れるだけで構造が壊れてしまうという弱点がありました。そこで日本の産業技術総合研究所(産総研)は、2019年4月に画期的な「暗黒シート」を発表しました。これは耐久性と究極の黒を両立させた、まさに日本発の至宝です。
産総研の技術は、黒いゴムの表面に数十マイクロメートルの微細な山を無数に作るというものです。光がこの斜面に当たるたびに減衰していく仕組みで、光吸収率は驚異の99.5%以上に達します。触れても性能が落ちないこのシートは、私たちの日常に近い場所での活用を可能にしました。
同時期の2019年9月には、米マサチューセッツ工科大学も「世界一の黒」を更新したと発表しています。彼らはダイヤモンドを真っ黒な平面に変えてしまうデモンストレーションを行い、芸術分野への応用も示唆しました。科学者たちが競うように「光の消失」を目指す姿は、実に情熱的です。
こうした「究極の黒」は、カメラのレンズ内部や天体望遠鏡といった光学機器で喉から手が出るほど求められています。余計な反射光(迷光)を極限までカットすることで、宇宙の彼方にあるかすかな星の光を、これまで以上に鮮明に捉えられるようになるためです。
将来的には、映画館の壁面やVRゴーグルの内部など、深い没入感が求められるシーンでもこの技術が活躍するでしょう。視覚情報を一度リセットしてしまうような「無の空間」を作り出せるこの材料は、2〜3年以内の実用化を目指しており、私たちの生活を劇的に変える可能性を秘めています。
私個人の意見として、この技術はデザインの概念を根底から覆すものだと感じます。形を消し去るほどの黒は、ファッションや建築において「実在感」を操作する魔法のツールになるはずです。科学が生んだこの新しい「闇」が、どのような光を未来に当てるのか目が離せません。
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