活気に満ちたベトナムの首都ハノイを歩くと、道端で鏡を壁に掛け、巧みにハサミを操る男性たちの姿が目に飛び込んできます。これは「路上理髪店」と呼ばれるベトナムの名物風景で、2019年12月08日現在もなお、多くの庶民から絶大な支持を集めているのです。
驚くべきはその圧倒的なコストパフォーマンスで、ひげそりまでセットになって、わずか5万ドン(約250円)という破格の安さを実現しています。SNS上でも「これぞ東南アジアの醍醐味」「開放感がすごそう」といった驚きの声が広がっており、観光客にとっても興味深い文化の一つと言えるでしょう。
ベテランの技が光る!10分間で手に入る「究極の時短」
ハノイ市中心部のレ・クイ・ドン通りで20年のキャリアを誇るトン・ズオンさん(41歳)は、まさにこの道のプロフェッショナルです。椅子こそ年季が入っていますが、バリカンとハサミを使い分けるその手つきには一切の迷いがなく、常連客の髪を次々と整えていきます。
「シャンプー台がない」という驚きの環境ゆえに洗髪の工程は省かれますが、それがかえって「10分でさっぱりできる」という究極の時短メリットを生んでいます。忙しい自営業の男性たちからは、細かな指示を出さずとも理想の形に仕上げてくれる信頼感が、何よりの魅力として語られているのです。
気になる懐事情ですが、ズオンさんのような人気理髪師は、月に2千万ドン(約10万円)以上を稼ぎ出すこともあります。雨天時は休業を余儀なくされるものの、かつてバイク修理工だった彼が職を替えるほど、路上理髪店はベトナムにおいて夢のある職業とされている点には驚かされます。
経済発展の波と、失われゆく「昭和」の情緒
しかし、急成長を遂げるベトナムにも変化の波が押し寄せています。近年は屋内の近代的な美容室チェーンが台頭しており、こちらはカットに10万から20万ドン程度と路上に比べ2倍から4倍の価格設定ですが、おしゃれに敏感な若者層を中心に利用者が急増している状況です。
かつての日本が歩んだ高度経済成長期のように、屋台や靴磨き、そしてこの路上理髪店といった「生活の匂い」がする風景は、少しずつ姿を消しつつあるのかもしれません。効率化や衛生面も大切ですが、空の下で語らいながら髪を整える情緒まで失われてしまうのは、どこか寂しさを感じてしまいます。
それでも、ハノイの路地裏には今もハサミの音が心地よく響いています。利便性だけでは測れない「人と人の距離の近さ」がそこにはあり、単なる散髪代以上の価値が提供されているのでしょう。この力強い庶民の文化が、形を変えながらも長く続いていくことを願ってやみません。
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