上海の華やかな中心地、静安区に位置するオフィスビルでは、かつての活気が嘘のような怒号が響き渡っています。2019年9月、私募ファンド「至善基金」の従業員たちが、未払いとなった給与や社会保険料の支払いを求めて声を上げました。経営陣が夜逃げ同然で姿を消したため、現場に取り残されたスタッフや投資家たちは途方に暮れています。
この混乱の渦中にいる投資家の一人、葛行軍氏は、被害者が3000名規模に達し、損失額は日本円にして約310億円にのぼると怒りを露わにしています。SNS上でも「信頼していたファンドが突然消えるなんて」「老後の資金がゼロになった」といった悲痛な叫びが拡散されており、個人の資産形成を揺るがす深刻な事態として注目を集めています。
中国資本市場を蝕む「私募ファンド」の連鎖破綻
そもそも「私募ファンド」とは、銀行などの公募とは異なり、特定の富裕層や機関投資家から少人数で資金を集めて運用する仕組みを指します。自由度が高い反面、情報開示が不透明になりやすい側面があります。2019年11月時点で、当局が連絡不能と判断した業者は955社に達しており、まさに異常事態といっても過言ではありません。
かつて急成長を遂げたP2P金融(ネットを介した個人間融資)の崩壊に続き、今度は投資のプロであるはずのファンドが次々と姿を消しています。北京の「諾伊投資」や深センの「特斯拉投資管理」といった有力企業までもが営業を停止しており、中国の資本市場が抱える構造的な欠陥が、今まさに表面化している状況といえるでしょう。
株安が引き金となった担保ローンの崩壊
なぜ、これほどまでに破綻が相次いでいるのでしょうか。その背景には、自社株や不動産を担保に資金を借りまくる「債務依存体質」があります。多くのファンド設立者は、保有資産を担保に借金を重ねて投資を拡大してきましたが、2018年の株価下落によって、追加の担保を差し出す余裕がなくなり、資金繰りが行き詰まってしまったのです。
私は、この現状をかつての日本のバブル崩壊に重ねずにはいられません。中国当局は景気への悪影響を恐れ、担保ローンへの規制を先送りにしてきましたが、その甘さが結果として債務の火種を大きくしてしまいました。健全な成長を優先するよりも、目先の株価維持に執着したツケが、今こうして一般市民や企業を直撃しているのです。
この影響は実体経済にも波及しており、2019年のスタートアップ企業による資金調達額は、前年に比べて4割も減少する見込みです。未上場企業への資金供給源だったファンドが機能不全に陥ったことで、中国のイノベーションの火が消えかねない状況です。不透明な「深淵」の底はまだ見えず、投資家には極めて慎重な判断が求められています。
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