TDK元会長・澤部肇氏が説く「機能対等」の精神とは?上下関係を超えた議論が最強の組織を作る理由

30代という血気盛んな時期、後にTDKの会長を務めることとなる澤部肇氏は、当時の上司である大歳寛氏と共に松下電器産業(現在のパナソニック)を訪れました。そこで目にしたのは、廊下で激しく議論を交わす若手社員とベテランの姿です。驚くことに、勢いよく意見をぶつけていたのは主任であり、たじろいでいたのはなんと事業部長でした。

「あれが理想の姿や」と大歳氏は語りましたが、当時のTDKも決して負けてはいませんでした。役員室のドアは常に開放されており、部下が訪ねてくれば役員は作業を止めてまで耳を傾けたのです。一度でも「忙しい」と拒絶すれば、部下は二度と相談に来なくなってしまう。そんな緊張感と信頼が共存する、風通しの良い社風がそこにはありました。

SNS上では、このエピソードに対し「今の時代にこそ必要なフラットさ」「これぞ日本企業が持っていた本来の強み」といった、古き良き熱い議論を交わせる文化を羨む声が多く寄せられています。企画部門の本質は、自らモノを作らず売らずだからこそ、知恵を絞って意見を発信することに価値があるのだと澤部氏は学んでいきました。

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「意見を言う責任」とプロフェッショナルの矜持

大歳氏は澤部氏に対し、「企画は意見を言ってなんぼだが、発言には責任を持て」と厳しく釘を刺しました。これは、単なる思いつきではなく、徹底的に勉強した上での発言を求めたものです。実際の経営会議では、議論が行き詰まり出席者が一斉にタバコに火をつけた瞬間を狙って手を挙げるなど、発言のタイミングにも独自の工夫を凝らしていました。

ある時、生産技術の役員と激しい議論になり、若さゆえに正論で言い負かしてしまったことがありました。その役員は去り際にニヤリと不敵な笑みを浮かべましたが、後年、澤部氏が欧州拠点のトップを務めていた際に再会します。その役員は出張先でもふらりと現場へ向かい、自らの手で製造ラインを磨き上げ、完璧に直してみせたのです。

「言葉」で戦う事務方と、「技術」で語る現場のプロ。たとえ議論でぶつかり合っても、根底には互いの専門性に対する深いリスペクトがありました。このように、役職の壁を超えて各々が「役割(機能)」を果たすために全力を尽くす姿勢こそが、TDKを支える原動力となっていた事実は、現代のビジネスパーソンにも多くの示唆を与えてくれます。

欠点すら笑いに変える、2019年12月12日現在の視点から見た人間味ある組織

2019年12月12日に記された回想録の中で、澤部氏は出張帰りの列車内での微笑ましいエピソードも明かしています。社長の素野福次郎氏から急に「上司の欠点を言ってみろ」と振られ、正直に「腰が弱い」と答えた際も、当の大歳氏は大笑いして受け流しました。社長が「だから君らが助けるんや」とフォローする、実に温かみのある関係性です。

こうした経験から、澤部氏は社長就任後「機能対等」という言葉を大切にするようになりました。組織における役職はあくまで「機能」の違いに過ぎず、人間としては対等であるという考え方です。自分に対して物怖じせず意見を言う部下を大切にし、自身の未熟さを素直に認めることができたのも、この素晴らしい社風があったからに他なりません。

ここで「機能対等」について分かりやすく解説しておきましょう。これは、意思決定の責任者や実務の実行者といった「役割の差」はあっても、目的達成のために意見を出し合う場においては、立場に左右されず自由で平等な権利を持つという組織哲学です。上下関係を「支配・被支配」ではなく、パズルのピースのような補完関係と捉える視点です。

筆者の個人的な見解ですが、現代のDXや働き方改革が叫ばれる中でも、最終的に組織を動かすのはこうした「人間臭い信頼関係」ではないでしょうか。効率化ばかりを求めるのではなく、時には真正面からぶつかり、相手のプロの仕事に敬意を払う。澤部氏が歩んできた道は、これからの日本企業が再発見すべき「対話の形」を提示していると感じます。

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