2010年代の初頭、ビッグデータの波が押し寄せた際、ある製造現場の熟練者は「現場を知らないデータサイエンティストなど不要だ」と断じました。しかし、2019年12月12日現在の状況は一変しています。今や、デジタル技術を駆使してデータを解析できる人材は、あらゆる企業が喉から手が出るほど欲しがる存在となりました。
そこで注目されているのが、現場の知識と解析スキルを兼ね備えた「ものづくりデータサイエンティスト」です。最先端の計算手法であるアルゴリズムは日進月歩で進化しており、これを作業現場で活用しない手はありません。SNS上でも「現場の勘だけに頼る時代は終わった」「職人技とデータの融合こそが最強」といった声が目立ち始めています。
「系」から「個」へ、データが導く驚きの解決策
自動車部品大手のデンソーでFactory IoTを担当する吉野睦氏は、活用のトレンドが「系よりも個」にシフトしていると指摘します。これは工場全体の平均的な状態を把握するのではなく、製品一つひとつ(個体)の状態を詳細に追跡することを意味します。特定のIDに紐付いた膨大な情報を処理することで、従来は見えなかった不具合の兆候を捉えられるのです。
人間が直感的に理解できるのはせいぜい3次元から4次元程度の要素までですが、現在のコンピューターは数百もの変数が複雑に絡み合う「高次元データ」を瞬時に処理します。このように、膨大な情報から帰納的に答えを導き出す「データドリブン(データ駆動型)」という考え方は、これまでの理論重視の設計とは一線を画す革新的なアプローチといえます。
三菱ケミカルホールディングスの磯村哲氏によれば、この手法は研究開発から生産、さらには顧客先での稼働管理に至るまで、既存の限界を打破する新鮮な驚きをもって受け入れられています。まさに、ベテランの「見る目」を補完し、さらにその先へ進むための翼を授けてくれるのが、現代のデジタル解析技術なのです。
現場力こそが最強の武器になる時代
ものづくりデータサイエンティストに必要なのは、必ずしも複雑な数式を自ら解く力だけではありません。最も重要なのは、現場の業務から「解決すべき課題」を見つけ出す能力です。これは日頃から現場で汗を流す人材にこそ備わっている力であり、そこに少しのデータサイエンスの素養が加われば、魔法のような化学反応が起こるでしょう。
実際にNECや日立製作所といった国内大手企業でも、2018年頃から深刻化した専門人材の不足を受け、若手技術者への大規模な育成を開始しています。面白いことに、彼らの配属先は本社の専門部署ではなく、実際の工場や研究所といった「現場の最前線」が増えています。机上の空論ではなく、現場を動かしてこそ価値が生まれるという確信が広がっています。
2019年8月には慶應義塾大学を中心に「ファクトリー・サイエンティスト育成講座」が開催されるなど、中小企業向けの支援も本格化しています。私は、こうした動きこそが日本の製造業の底力を引き出すと確信しています。安価なセンサーやクラウドが普及した今、技術者がデータという新しい武器を手にすることは、もはや生存戦略の一部なのです。
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