「それでは皆さん、おやすみなさい」という、講演会とは思えない異例のアナウンスが響き渡ります。大日本住友製薬が2017年から実施している社員向け講座「寝てもいい/寝たらいいレクチャーシリーズ」が、今大きな注目を集めています。2019年11月末時点で46回を数えるこの取り組みは、累計5,000人以上が参加する人気コンテンツへと成長しました。本来は集中して聴くべき場を、あえて「仮眠の場」として開放する逆転の発想が、現代のビジネスパーソンに刺さっているようです。
SNS上でもこの取り組みは反響を呼んでおり、「こんな会社で働きたい」「合理的すぎて感動した」といったポジティブな意見が目立ちます。会議中の居眠りは通常、マナー違反と見なされますが、この講座では「つまらなければ寝ればいい」と公式に認められているのです。昼食後の12時30分から始まる25分間、薄暗いホールでウトウトしながら過ごす時間は、まさに究極のリフレッシュタイムと言えるでしょう。実際に参加者の約2割から3割が、心地よい眠りに落ちているそうです。
知的好奇心と休息を両立させる「攻めの働き方改革」
この企画を主導する馬場博之常務執行役員は、寝ても寝なくても「狙い通り」だと笑顔で語ります。寝れば頭がすっきりして午後のパフォーマンスが上がりますし、起きていれば多様な知見を得られるからです。講演の内容は非常に幅広く、社員による海外研修報告からバイオリンコンサート、さらにはスピーカーの聴き比べまで、枠にとらわれないラインナップが揃っています。この自由な空気感が、社内外から「登壇してみたい」という希望者が相次ぐ要因となっています。
ここで注目したいのが「パワーナップ(積極的仮眠)」という考え方です。これは、15分から20分程度の短い睡眠をとることで、脳の疲れを解消し、認知能力や集中力を劇的に回復させる科学的な手法を指します。製薬会社という科学的根拠を重んじる組織が、このリフレッシュ効果を業務の一環として取り入れた点は非常に意義深いと感じます。単なるサボりではなく、より高度で創造的な仕事をするための「戦略的休息」を会社が推奨しているのです。
実際に参加した社員からも、日中の短時間の睡眠によって気分が変わり、業務への集中力が増したという声が上がっています。また、部署や役職の垣根を越えて「無目的に集まれる場所」があることで、何気ない会話から新しいアイデアが生まれるという副産物も得られているようです。ストレスを排除したフラットな空間こそが、イノベーションの土壌になるという馬場氏の指摘には、多くの企業のマネジメント層が耳を傾けるべき価値があるでしょう。
アロマにハンドスピナーも?遊び心が育む創造的な職場
大日本住友製薬の試みは、講演会だけにとどまりません。2018年末に大阪本社で導入され、2019年8月には東京本社にも設置されたワンコインのマッサージルームは、予約が殺到するほどの人気を博しています。さらに、会議中にアロマディフューザー(精油を霧状にして拡散させる装置)を使用してリラックス効果を高めたり、手持ち無沙汰を解消して集中力を助ける玩具「ハンドスピナー」を配布したりと、ユニークな実験が続いています。
個人的な意見として、日本企業に根強く残る「苦労してこそ美徳」という価値観を、同社は真っ向から塗り替えようとしているように見えます。真面目な製薬企業が、あえて「遊び心」や「心地よさ」を追求することは、優秀な人材の確保やメンタルヘルスケアの観点からも非常に賢明な判断です。今後は会場に脳波計を持ち込んで、睡眠が脳に与える影響をデータ化する計画もあるとのことで、科学的な裏付けを持った新しい働き方のスタンダードが確立されるかもしれません。
「ワクワクする職場にしたい」というビジョンのもと、同社が追求するストレスフリーな環境づくりは、生産性向上を目指すすべての組織にとって重要なヒントを提示しています。仕事の合間に正々堂々と目を閉じることができる文化は、単なる休息を超えて、働く喜びや新しい発想を生み出す源泉となっていくでしょう。今後のさらなる展開に、業界内外から熱い視線が注がれています。
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