ベトナムの経済シーンに激震が走りました。国内最大の民間複合企業であるビングループが、2019年12月13日までに、主力の小売事業を大幅に縮小する方針を固めたのです。具体的には、スーパーやコンビニを展開する運営会社の経営権を、現地大手食品メーカーのマサングループへ譲渡すると発表しました。
不動産開発を中核に成長してきた同社ですが、急速な多店舗展開が裏目に出て、小売部門の不採算が経営の重荷となっていたようです。今回の決断により、同社は2019年6月に本格始動した自動車製造などの成長分野へ、経営リソースを大胆にシフトさせる狙いがあると考えられます。
ネット上では「あのビンマートが変わるのか」といった驚きの声が広がっています。市民の生活に深く根付いていた存在だけに、SNSでは今後のサービス維持を巡る議論も活発です。ただ、経営の効率化を優先する姿勢に対しては、投資家から一定の理解を示す意見も見受けられます。
巨大リテールの統合とマサングループの躍進
現在、ビングループはベトナム国内の50都市で、計2600店舗以上ものスーパーやコンビニを運営する圧倒的な小売王者です。今回の再編では、店舗運営を担う「ビンコマース」と農業事業会社の2社を、マサングループの小売部門と統合させるスキームが採られました。
統合後の新会社については、マサングループが主導権を握る形となります。これは、製造から小売までを一気通貫で管理する「バーティカル・インテグレーション(垂直統合)」を目指す動きと言えるでしょう。専門用語としての垂直統合とは、製品の供給源から販売までを自社グループで完結させ、効率を高める手法を指します。
一方でビングループは、すべての小売りから手を引くわけではありません。「ビンコムセンター」などの大規模な商業施設開発を手掛けるビンコムリテールについては、引き続き経営権を維持する方針です。あくまで「現場の店舗運営」という重いコストを切り離す選択をしたといえます。
悲願の国産車事業と未来への布石
今回の事業譲渡の背景には、同社が並々ならぬ情熱を注ぐ自動車事業への巨額投資があります。2019年6月には約4000億円を投じた巨大工場を建設し、ベトナム初となる国産ブランド車「ビンファスト」の生産を開始しました。将来的には電気自動車(EV)を含め、年間25万台の生産を目指しています。
2018年12月期には売上高122兆ドン(約5700億円)を記録した同社ですが、新事業への投資負担は決して軽くありません。格付け機関が財務状況を注視する中で、不採算部門を整理し、人材と資金を次世代産業へ集中させる戦略は、企業存続をかけた合理的な判断だと言えるでしょう。
編集者の視点から見れば、この大胆な「選択と集中」こそが新興国企業のダイナミズムそのものです。伝統的な店舗販売から、2019年5月に開始した仮想店舗サービスのようなデジタル戦略へ舵を切る同社の動向は、今後の東南アジア市場におけるビジネスモデルの試金石となるはずです。
コメント