欧州を揺るがした惨劇の深淵へ。国末憲人氏の力作『テロリストの誕生』が描く、普通の人々が過激思想に染まるまで

2015年から2016年にかけて、フランスとベルギーを震撼させた連続テロ事件は、今なお私たちの記憶に深く刻まれています。2019年12月14日に書評が公開された国末憲人氏の著書『テロリストの誕生』は、週刊紙「シャルリエブド」襲撃事件を含む4つの惨劇を、圧倒的な熱量で描き出した一冊です。欧州に根を下ろしたベテラン記者ならではの視点は、事件の表面をなぞるだけではなく、実行犯たちの内面にある暗部を浮き彫りにしています。

本書の特筆すべき点は、ごく普通の市民がイスラム過激思想という「毒」に侵され、冷酷なテロリストへと変貌を遂げるプロセスを克明に追っていることでしょう。ここでいう「過激思想」とは、特定の宗教や信念を極端に解釈し、自身の正義のために暴力や殺人を正当化する危険な考え方を指します。地元のメディアが報じた膨大な記録に加え、著者による独自の綿密な取材が組み合わさることで、報道の裏側にある真実が息を呑むような迫力で迫ってきます。

SNS上では「テロリストを美化するのではなく、社会が抱える病理をえぐり出している」といった鋭い反響が寄せられています。私自身、この作品を読んで強く感じたのは、実行犯たちが決して「特別な怪物」ではなかったという恐怖です。彼らの多くは私生活において失業や孤立、差別といった等身大の悩みを抱えていました。その心の隙間に忍び寄る「負の連鎖」こそが、テロリズムの真の温床となっている現実に、強い危機感を抱かずにはいられません。

たとえ単独や少数による犯行に見えたとしても、その背景には思想を供給する者や資金を融通する者など、複雑に絡み合う「関係者」の存在が見え隠れします。個人の問題として片付けるのではなく、社会構造そのものが彼らを過激化させた要因を直視すべきではないでしょうか。定価2900円(草思社)という価格以上の重みを感じる本書は、対岸の火事としてではなく、現代社会が抱える共通の課題として、私たちに深い考察を促す鏡のような存在なのです。

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