東南アジアの熱気は、経済成長の数字だけではなく、若者たちの眼差しにも色濃く反映されているようです。タイの工科系大学でトップクラスの評価を受けるモンクット王工科大学トンブリ校(KMUTT)にて、2018年02月に行われたアンケート結果が、今まさに注目を集めています。
なんと、回答した学生の98%という圧倒的な割合が「将来は起業したい」という意志を示しているのです。内訳を詳しく見ると、卒業前に起業を果たす猛者が32%、卒業直後に挑戦する層が46%となっており、組織に属さず自らの力で道を切り拓こうとする姿勢が顕著だと言えるでしょう。
2019年10月に現地の前副学長へ確認したところ、現在はこの傾向がさらに加速しているというから驚きを隠せません。ここでの「起業」とは、最先端のIT技術を駆使したスタートアップ企業だけでなく、お洒落なコーヒーショップの経営といった身近なビジネスも含まれています。
手段は問わず「自分の城を築きたい」という情熱が、彼らの原動力になっているのでしょう。こうした主体的な生き方はSNS上でも大きな反響を呼んでおり、「失敗を恐れない姿勢が羨ましい」「日本も見習うべき点があるのではないか」といった声が数多く寄せられています。
日本の現状と「安定志向」の壁
一方、ひるがえって2019年05月に日本の工科系大学で実施された同種の調査では、実に対照的な景色が広がっています。起業の予定がないと答えた学生は86%に達しており、起業を志すわずかな層でさえ、多くが「まずは就職してから」という慎重な姿勢を崩していません。
「アントレプレナーシップ(起業家精神)」という言葉をご存知でしょうか。これは単に会社を作る能力ではなく、自ら課題を見つけ出し、リスクを恐れず新しい価値を創造しようとする精神を指しますが、残念ながら現在の日本の若者にはこの意識が浸透しきっていないようです。
実際に、スイスのビジネススクールIMDが発表した2019年の世界競争力ランキングでは、タイが25位へと順位を上げたのに対し、日本は30位に転落して逆転を許しました。この結果は、国家の活力と若者の挑戦する意欲が、いかに密接に関係しているかを如実に物語っています。
私は、この差は単なる国民性の違いではなく、失敗に対する許容度の違いではないかと考えます。タイの若者のように、例え小さくとも自分の手で事業を始めることを「当たり前」とする文化が、社会全体にエネルギーを循環させている事実は無視できない大きなポイントでしょう。
支援制度は整うも、醸成されない「起業文化」
日本政府も手をこまねいているわけではなく、文部科学省は「EDGEプログラム」や「EDGE-NEXT」といった次世代の挑戦者を育成する事業を2014年度から継続して展開しています。これらは、大学の研究成果をビジネスに繋げるエコシステムの構築を目指す重要な試みです。
「エコシステム」とは、産学官が連携して企業が生まれ育つ環境を整える循環を意味しますが、制度面は整いつつあります。2018年度の「ビジネスアイデア甲子園」には133校が参加するなど、学生向けのコンテストも活況を呈しているように見えます。
しかし、こうしたイベントの盛り上がりが、必ずしも日常的な「起業文化」の形成には繋がっていません。起業はあくまで特別な誰かの選択肢であり、多くの学生にとっては自分事として捉えられていないのが現状ではないでしょうか。
今の日本に必要なのは、単に会社を増やすことではありません。企業内や官公庁、NPOといったあらゆる場所で、既存の枠組みを壊し新しい事業を創り出す「起業家精神」を持った人材です。若者がもっと軽やかに挑戦できる環境作りが、日本の明日を左右すると確信しています。
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