2019年12月20日、冬の寒さが本格化するなか、東京・国立劇場の師走公演が大きな注目を集めています。華やかな話題が飛び交う演劇界において、今月最も質の高い舞台を届けているのは、間違いなくこの劇場と言えるでしょう。伝統の継承と新たな挑戦が交錯する本公演では、松本白鸚さんと松本幸四郎さん親子が、それぞれ対照的な演目で観客を魅了しています。
今回の白鸚さんは、実に28年ぶりとなる「盛綱陣屋(もりつなじんや)」の主役・佐々木盛綱に挑んでいます。これは「丸本物(まるほんもの)」と呼ばれる、もともと人形浄瑠璃のために書かれた義太夫節を伴う重厚な古典演目です。高齢を迎えながらも、余計なものを削ぎ落としたすっきりとした演技には、近年の彼が到達した新境地がはっきりと表れており、まさに「進化」を体感させてくれます。
SNS上でも「白鸚さんの盛綱は品格が違う」「時代物の重みが心に響く」といった絶賛の声が相次いでいます。特に、同年代を歩んできた中村吉右衛門さんや片岡仁左衛門さんとはまた異なる、独自の枯れた味わいは必見です。脇を固める俳優陣も素晴らしく、中村魁春さんや市川高麗蔵さん、上村吉弥さんといった実力派の女方(おんながた)たちが、物語の鍵を握る女性心理を鮮やかに表現しています。
さらに特筆すべきは、松本幸一郎さんの好演でしょう。彼は幸四郎さんの最年少の門下生ですが、子役として屈指の難役である小四郎を堂々と演じきりました。ベテランの坂東楽善さんが見せる渋い演技と相まって、一見難解に思われがちなこの名作が、現代の観客にも分かりやすく、くっきりと浮かび上がっています。こうした若手の成長とベテランの技の融合こそ、歌舞伎の醍醐味だと私は感じます。
喜劇王チャップリンが歌舞伎に!幸四郎が描くモダンな笑い
一方で、松本幸四郎さんが挑むのは、チャップリンの名画を題材にした「蝙蝠(こうもり)の安さん」という異色作です。昭和初期のモダニズムの香りが漂う本作は、かつて十三代目守田勘弥が演じた幻の演目を復活させたものです。幸四郎さんはチャップリンを模倣するのではなく、彼自身の持ち味である「飄々(ひょうひょう)とした可笑しみ」を前面に出しており、その賢明なアプローチが成功の秘訣となっています。
原作の映画はサイレント(無声映画)形式でしたが、舞台ではセリフによって物語が進みます。音のない世界での「手の感触」による感動的なラストシーンを、言葉のある演劇でどう表現するかという点は、非常に興味深い挑戦と言えるでしょう。2019年12月26日まで上演されるこの二本立ては、古典の深淵と新作の遊び心を同時に味わえる、まさに今年を締めくくるにふさわしい贅沢な時間です。
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