2019年6月24日、世界は経済の減速、そして保護主義の拡大という大きな課題に直面しています。特に、世界経済の方向性を左右するG20サミットが大阪で開幕を控え、その議論の行方に注目が集まっています。ヨーロッパ最大の輸出大国であるドイツにとって、この状況は非常に深刻です。ドイツ経済諮問委員会(GCEE)の委員長であるクリストフ・シュミット氏が示す、世界経済の現状と、ドイツおよび欧州が取るべき経済政策の方向性について、分かりやすく解説いたしましょう。
世界の経済成長率は、2017年に非常に高い水準を記録しましたが、翌年の2018年にはその勢いが大幅に鈍化しました。これは、多くの国で景気拡大が十分に進行し、国内総生産(GDP)(一定期間内に国内で生み出された付加価値の合計額)の伸びが、その国の実力(潜在成長率)に見合う水準に戻る、いわば「景気循環の正常な回帰」が主な原因だと考えられています。しかし、この自然な減速の流れに、米中間の貿易紛争や、英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)を巡る混乱といった、予期せぬ不確実性が重くのしかかりました。その結果、2018年後半には、多くの先進国・地域で目に見えて経済成長が減速してしまったのです。
このような状況を受けて、GCEEは最新の報告で、世界経済の実質成長率(物価変動の影響を除いた成長率)を2019年は2.7%、2020年は2.8%と予測しています。これは、2018年の3.2%から見て、明確な減速トレンドを示しています。当然ながら、世界全体の貿易量の伸びも鈍化し、2019年はわずか1.5%、2020年でも2.7%にとどまる見込みです(2018年は3.3%)。各国が成長鈍化の方向に進んでいるように見えますが、その背景にある事情は国によって大きく異なっているのが現状です。
例えば米国では、税制改革のおかげで2018年前半には経済が活発に動きましたが、その後の成長鈍化は、経済活動が本来の実力に見合う水準に戻るプロセスだと解釈されています。税制改革は、米国の潜在生産力(その国の経済が持つ最大限の生産能力)と成長率を押し上げる効果が期待されています。一方で、米国が新たに導入した輸入関税は、国内企業を有利にする可能性があるものの、貿易相手国からの報復措置を招けば、逆に成長を減速させる要因となりかねません。
ユーロ圏でも経済成長の減速が目立ちますが、その原因は国ごとの個別事情によるところが大きいようです。ドイツの大きな、しかし一時的な成長鈍化は、自動車生産の落ち込みを反映しています。また、イタリアでは、政府の財政政策を巡る先行き不透明感が解消されないことが投資を停滞させ、2018年後半には景気後退(経済活動が縮小する局面)に突入しました。しかし、こうした国内要因に加え、輸出需要の縮小がユーロ圏全体に重くのしかかっていることは、輸出依存度の高いユーロ圏にとって大きな懸念材料と言えるでしょう。
それでも、ユーロ圏は失業率が低下し、雇用と賃金が増加し続けているため、原油価格の下落も相まって、好調な労働市場が個人消費を押し上げると見込まれています。さらに、欧州中央銀行(ECB)は、成長鈍化に対応するために金融緩和に踏み込んでいます。GCEEは、ユーロ圏の実質成長率は再び安定に向かい、2019年は1.2%、2020年は1.4%と、潜在成長率(長期的に達成可能な成長率)に近づいていくと予想しています。ただし、米国が国家安全保障を名目に輸入自動車に追加関税を課すという重大なリスクが残っており、そうなれば欧州の自動車産業は深刻な打撃を受け、世界的な保護主義の連鎖を引き起こす可能性があり、非常に憂慮すべき事態だと考えられます。
🇬🇧ブレグジットの混乱と新興国の未来:貿易紛争の影
英国経済は、今後もブレグジット(英国のEU離脱)に翻弄され続けるでしょう。秩序ある離脱、つまり合意を伴う離脱という比較的楽観的なシナリオでのみ、わずかながらプラス成長が期待できる状況です。しかし、もし合意なき離脱という最悪のシナリオとなれば、英国経済が深刻な打撃を受けるのはもちろんのこと、他のEU加盟国の経済にも甚大な影響が及ぶことは避けられません。この問題は、ヨーロッパ経済の安定にとって、最も大きな不安定要素の一つだと言えるでしょう。
新興国の中でも、中国は米国との貿易紛争の激化による不確実性や関税引き上げによって、特に大きな影響を受けています。今後の展開は、米国が追加関税の脅しをどこまで実行に移すかにかかっています。また、中国が導入した景気刺激策が、財政の安定性(政府の借金などが無理のない範囲に収まっている状態)を脅かさずに、経済を支えられるかも重要な鍵となるでしょう。グローバル経済の減速が叫ばれる中で、新興国の成長の行方も、貿易紛争の動向に大きく左右される状況にあるのです。
このような世界情勢に対し、SNSでは「やはり貿易戦争の影響が世界経済全体に広がっている」「ブレグジットは早く決着してほしい」「日本も他人事ではない」といった不安や懸念の声が多く見受けられます。多くの読者が、国際的な不確実性の高まりに敏感に反応していることがうかがえます。
🇩🇪多国間貿易システム強化とエネルギー転換の提言
ドイツ経済は、一時的に陰りが見えるものの、戦後最長クラスの好況を維持してきました。しかし、長期的な成長見通しには暗雲が立ち込めています。ドイツの経済的繁栄を脅かす最大の要因の一つは、世界が多国間の秩序形成、つまり国境を越えたルールに基づいた協力体制から背を向け始めていることです。特に、米国が対中や対独の貿易赤字を問題視する対外政策が、この傾向を強めています。米国の経常収支は1980年代から慢性的に赤字であり、貿易赤字の原因を一国に求めるのは筋違いだと私は考えます。
ドイツ経済は貿易への依存度が極めて高く、これまでの好況は貿易によってもたらされたと言っても過言ではありません。国民一人当たりの実質所得(物価変動を考慮した所得)の伸びの約半分が、貿易によるものと推定されています。先進主要国の中で、ドイツは最も市場開放が進んだ国の一つです。しかし、足元では貿易紛争の激化が、国際的な役割分担(国際分業)を圧迫し、ドイツ経済に深刻な打撃を与えています。
このため、ドイツおよび欧州の政策当局は、ルールに基づく多国間貿易システムを強化し、世界貿易機関(WTO)加盟国間の関税を引き下げることを最優先課題として取り組むべきです。さらに、EUは新たな自由貿易協定(FTA)(二国間や多国間で関税や非関税障壁を撤廃・削減するための協定)を結ぶことも積極的に検討すべきです。特に米国とのFTAは望ましいですが、他の地域とも協定を締結し、貿易自由化の恩恵を享受する機会を最大限に生かすことが、ドイツ経済の未来を切り拓くでしょう。
ドイツは、保護主義的な政策を導入するのではなく、企業立地としての好条件を世界にアピールし、海外からの投資家を呼び込む努力を続けるべきだと強く主張します。また、ドイツ経済の将来を考える上で、人口構造の変化も見過ごせない問題です。主要国の中で労働力の高齢者依存度が最も高い部類に属するドイツでは、労働力人口の減少と熟練労働者不足が深刻化する見通しです。この課題を克服し、経済成長を維持するためには、生産性(労働投入量に対する生産量の割合)を大幅に向上させる必要があります。そのために、デジタル経済への移行に向けた包括的な構造改革が不可欠なのです。
このような点を踏まえると、ドイツ政府の最近の政策が、財政の持続可能性(将来世代に過度な負担をかけない財政運営)を損ねている現状は非常に気掛かりです。ドイツが今取り組むべきは、経済成長に配慮した税制改革、持続可能な年金・健康保険制度の構築、そして何よりも経済効率の良いエネルギーへの転換だと提言します。
地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定から米国が離脱したことは、温暖化抑止の努力に深刻な打撃を与え、ドイツにも大きな影響を及ぼしています。地球温暖化問題のグローバルな解決には、効率的なカーボンプライシング(炭素の価格付け、炭素排出に費用を課すこと)が欠かせません。世界共通の炭素価格を設定することは、グローバルなエネルギー転換の重要な手段となり、各国がバラバラにエネルギー政策を変更するよりも、はるかに大きな効果をもたらすはずです。ドイツは既に高い炭素効率(GDPあたりのCO2排出量が少ないこと)を実現しており、これ以上の効率改善の余地は乏しい状況です。
EU加盟国は、強化された排出量取引制度を支援し、世界共通の国際炭素価格の実現を目指すべきです。将来的には、輸送部門や家庭部門もこうした取引制度に参加することが望ましいと考えられます。そのときこそ、EUは温暖化ガスの削減に効果的かつ効率的に貢献できるでしょう。グローバルな課題には、グローバルなルールと協調で立ち向かうことが、未来の世代に対する私たちの責任だと考えます。
コメント