2019年6月7日に東京都千代田区で開催されたシンポジウム「高齢化と金融包摂」では、世界的な高齢化の波を単なる課題として捉えるのではなく、むしろ巨大な「ビジネスチャンス」として捉える視点が示されました。ペンシルベニア大学ビジネススクールのオリビア・ミッチェル教授は、「65歳はもはや高齢とは言えない」と述べ、人々の長寿化に伴う個人貯蓄や公的社会保障、企業年金制度が直面する課題を指摘しています。特に、高齢になるほど自信は高まる一方で、現実と期待との間にギャップが生じやすい「金融リテラシー」の低さを重要視し、ビッグデータの活用による早期の「警告」が必要であると訴えています。
専門家たちは長寿には限界がないとの見解を示しており、金融リテラシーの不足は、この長寿社会における様々な問題への理解を妨げてしまうことにつながります。ミッチェル教授は、この長寿を守り、支えるための市場を形成するには、政府と民間部門が協力する「官民のパートナーシップ」が不可欠であると強調しています。具体的には、規制や監督体制の整備に加え、高齢化に対応できる新しい金融商品の開発が求められているのです。
「シルバーエコノミー」は15兆ドルの巨大市場に成長
高齢化に関する世界連合(Global Coalition on Aging)のマイケル・ホーディンCEOは、今後50年間で高齢化が世界経済に最も大きな影響をもたらすと断言されています。21世紀半ばには、60歳以上の人口が20億人を超える見込みであり、これはまさに巨大なビジネスチャンスを生み出すと考えられます。すでに「シルバーエコノミー」、つまり高齢者関連市場は15兆ドル規模に達しているとの試算もあり、金融業だけでなく、サービス業やファッション業界に至るまで、あらゆる分野に商機が広がっているのです。
ホーディンCEOは、高齢世代は非常に多様である点を指摘し、各国で高齢者の雇用促進が図られている状況を紹介されました。また、高齢化社会においては、インフルエンザなど「成人向けのワクチン接種」の重要性が増しており、さらにアルツハイマー病といった高齢者特有の疾患にも目を向ける必要があると警鐘を鳴らしています。この高齢化という避けられない潮流に、すべての産業が戦略的に向き合うべき時期に来ていると言えるでしょう。
保険とデジタルの融合「インシュアテック」が課題解決の鍵
国際保険協会連盟(GFIA)のリカルド・アリアス会長は、保険会社が高齢化への対応で果たす役割に焦点を当てました。保険には、年金のようなリターンが期待できる貯蓄型のものが存在し、デジタル技術がこの高齢化の問題を解決する一つの手段になるとの見解を示しています。実際、スウェーデンや英国ではオンラインでの年金追跡システムが導入され、チリでは年金支払いのオンライン化が円滑に進められているようです。
特にイノベーションが進んでいるのがケニアの事例です。同国では通信会社や金融機関が連携し、電子的な年金や定年後の給付に関する取り組みが行われています。さらに注目すべきは、保険と情報技術が融合した「インシュアテック」分野での協業です。例えば、血糖値や睡眠時無呼吸の測定を行い、状態が悪化した場合に親戚に警告を発するサービスなどが開発されており、高齢者の健康管理と保険のあり方を大きく変えつつあるのです。アリアス会長は、各国で年金制度が十分ではない現状を踏まえ、デジタル化や税制改革を含む「十分な情報提供」と「金融教育」の重要性を訴求しています。
高齢者の就労は若年層の雇用にも好影響
国際支援団体ヘルプエイジ・インターナショナルのジャスティン・ダービシャーCEOは、人口高齢化への対策を怠れば、経済成長の減速や世代間の競争激化、医療費の高騰を招き、若い世代の活力が失われかねないと指摘しています。このため、各国政府が責任を持って高齢者が活躍できる環境を整備する必要があるでしょう。従来の高齢者の晩年の収入源は、公的給付、自らの資産、そして家族、特に子供からの支援の三本柱でしたが、現在は状況が変化しているとのことです。
興味深いことに、すべての国において、定年後も3分の1以上の人が何らかの形で働いています。高齢者が働き続けることは、若い世代の雇用を奪うという懸念が時折聞かれますが、調査結果では、むしろ逆の、経済全体、個人、そして若年層の雇用にも良い影響を与えるという結果が出ているようです。その一方で、高齢者を支える若者の数が減少しているのも事実です。エチオピアやベトナムなどの事例のように、適切な社会的・経済的投資を通じて「世代間共助」の仕組みを増やすことで、高齢者自身が自らの人生をコントロールできる環境を整えることができると、ダービシャーCEOは結論付けています。
私の意見:希望としての長寿社会とデジタル投資の重要性
今回の一連の議論を拝見し、私は高齢化がもたらす未来は、危機であると同時に「希望」であると感じました。少子高齢化は世界的な課題ですが、その本質は「人々が長く健康に生きられるようになった」という人類の進化の証にほかなりません。ミッチェル教授の「65歳はもはや高齢ではない」という発言は、まさにその変化を象徴しているのではないでしょうか。しかし、その希望を現実のものとするためには、議論されたように「金融リテラシー」の底上げと、テクノロジーへの積極的な投資が不可欠であると私は考えます。
特に、インシュアテックに見られるような、金融とデジタル技術の融合は、高齢者の健康管理や資産形成をサポートする上で、計り知れない可能性を秘めています。テクノロジーの力で、年金制度の不備や健康不安といった課題を克服し、高齢者一人ひとりが尊厳をもって自立した生活を送れる社会。それこそが、20億人市場という巨大な経済効果を最大限に引き出し、世代を超えて豊かさを享受できる「長寿社会の理想形」だと確信しています。各国政府、企業、そして個人がこの変革に本気で取り組むべき時がきていると言えるでしょう。
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