2019年12月27日、新しい年を目前に控えた大掃除の真っ最中、ふと手に取った一冊の本が掃除の手を止めさせてしまうことがあります。山積みになったいわゆる「積ん読」の状態から救い出したその本のまえがきには、深く心に染み入る一節が記されていました。そこには、著者が長生きをして自分の本が重版される喜びを「命なりけり小夜の中山」という言葉で表現していたのです。
この美しいフレーズの出典を紐解いてみると、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した歌人、西行法師の和歌に行き当たります。当時としては非常に高齢な69歳という年齢で、京都から遠く東北の地を目指した旅路の中で詠まれたものだそうです。この「小夜(さや)の中山」とは、現在の静岡県掛川市に位置する険しい峠道のことを指しており、古くからの歌枕としても知られています。
1186年、西行は平家の南都焼討によって焼失した東大寺を再建するため、勧進(寺院建立などのために寄付を募ること)の使命を帯びて奥州・平泉へと向かっていました。その道中で詠まれた歌の上の句は「年たけてまた越ゆべしと思ひきや」というものです。若き日に越えたこの峠を、まさかこれほどの年老いてから再び越えることになるとは夢にも思わなかった、という驚きが込められています。
鎌倉殿も認めたバイタリティと現代の「生涯現役社会」
旅の途中で鎌倉に立ち寄った西行は、時の権力者である源頼朝とも対面を果たしています。武士の家系に生まれた彼らしく、頼朝の前で流鏑馬(馬を走らせながら的に矢を射る伝統的な武芸)の極意を語って聞かせたというエピソードからは、老いてなお衰えない驚異的な気力が伝わってきます。まさに現代の日本政府が掲げる「生涯現役で活躍できる社会」を、800年以上も前に体現していた先駆者と言えるでしょう。
少子高齢化が加速し、出生率の低下が社会問題となっている現在の日本において、高齢者の活躍は経済成長を支えるポジティブな要因として注目されています。年金制度の再構築や企業内での役割維持といった課題は山積みですが、豊かな経験と気力を備えた先輩方が職場で「生きていてこそ、この瞬間がある」と実感できる社会は、決して理想論ではありません。西行が最期に「願わくは花の下にて」と詠んだ4年前の出来事は、私たちに力強い勇気を与えてくれます。
SNS上では「大掃除が進まないのはあるあるだけど、そこから人生観を深めるのは素敵」「自分も西行のように情熱を持って歳を重ねたい」といった共感の声が広がっています。忙しい年末のひとときに、古典の言葉を通じて自身のキャリアや生き方を見つめ直す。そんな豊かな心の余裕こそが、新しい時代を切り拓くエネルギーになるのではないでしょうか。西行が見た景色と現代の課題が、時を超えて重なり合うのを感じます。
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