2019年12月24日、東京都府中市の中心部に激震が走りました。京王線府中駅南口のランドマークとして親しまれ、同年9月に惜しまれつつ閉店した旧伊勢丹府中店。その入居先である再開発ビルの運営会社「フォルマ」が、賃借料の支払いを求めて三越伊勢丹を提訴するという異例の事態に発展したのです。SNS上でも「仕事帰りの楽しみだった伊勢丹がなくなるだけでなく、裁判沙汰になるなんて」「駅前の活気が失われないか心配」といった、地元の行く末を案じる声が相次いでいます。
騒動の舞台は、1996年に開業した「フォレストサイドビル」です。ここは、かつての商店街地権者で構成される組合と府中市が出資して運営されており、まさに市民と行政が一体となって育ててきた場所と言えるでしょう。2018年9月に閉店が発表された当初、三越伊勢丹側は業態を変更して新たな商業施設を運営する方向でフォルマと基本合意していました。しかし、詳細な条件交渉の過程で、三越伊勢丹側が求めた大幅な賃借料の減額が、安定した収入を求める地権者側の強い反発を招くこととなったのです。
さらに、新たに誘致するテナントの具体的なビジョンが示されなかったことで、地権者たちの不信感はピークに達しました。ここで言う「テナント」とは、ビルなどの区画を借りて営業する店舗のことですが、核となる存在が見えないままでは将来への不安が拭えません。結局、フォルマ側は基本合意を破棄。賃貸借契約の解約に伴う損害賠償や、内装を元の状態に戻す「原状回復」の負担を巡って議論は平行線を辿り、賃借料が支払われない状況を打開するため、ついに法的手段が選ばれる形となりました。
五輪目前の足踏み、中心市街地への深刻な影響
地元が何よりも懸念しているのは、街の顔とも言える「核店舗」が不在のまま放置される長期的なリスクです。核店舗とは、その施設の集客を支える中心的な大型店を指します。府中駅周辺は、2017年の「ル・シーニュ」開業により再開発が完了し、2018年度の売上高は356億円にまで成長していました。そのうち約4割を占めていた伊勢丹の穴はあまりに大きく、契約解消が遅れることで、期待されていた2020年の東京五輪前の新店オープンは絶望的な状況となっています。
私は、今回の提訴は単なる金銭トラブルではなく、地方都市が直面する「百貨店モデルの限界」と「街づくりの難しさ」を象徴していると感じます。大手百貨店の撤退は全国で相次いでいますが、その後のビジョンを地権者と事業者が共有できなければ、地域経済は疲弊する一方です。商工会議所が「周辺の人通りが減り、不動産価格の下落を招きかねない」と警鐘を鳴らす通り、街の活気を維持するためには、一時的な賃料の多寡よりも、一刻も早い「次の一手」の実行が求められます。
府中市は美しいけやき並木や大國魂神社など、豊かな観光資源を持つ魅力的な街です。行政や地元の関係者が望むのは、裁判の長期化ではなく、市民が再び買い物を楽しめる活気ある駅前風景の復活でしょう。三越伊勢丹側は「係争中のためコメントを控える」としていますが、かつて街のシンボルを担った企業として、地域との共生を第一に考えた解決策を提示してほしいと願わずにはいられません。一日も早く、府中駅南口に新しい笑顔があふれる日が来ることを期待しています。
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