自動車業界に激震が走るほどの大きな決断を、住友金属鉱山が下しました。同社は電気自動車、いわゆるEV向けの需要に頼り切った現状からの脱却を目指すそうです。なんと、2027年までにハイブリッド車、すなわちHV向けの車載電池材料の生産能力を現在の約10倍にまで引き上げる構想を打ち出しました。
現在の同社における生産体制は、約9割がEV向けに集中している状態です。しかし、EVの需要というものは世界各国の補助金政策や景気の動向に激しく左右されやすいという弱点を持っています。そこで受注量の変動リスクを賢く抑えるために、HV向けの供給比率を4割にまで高める戦略へと舵を切りました。
この壮大な計画のために、住友金属鉱山は2027年までに合計350億円という巨額の投資を実行する予定です。リチウムイオン電池の心臓部とも言える「正極材(せいきょくざい)」全体の生産量を、現在の2倍に匹敵する月産1万トンにまで押し上げることを目標に掲げています。
ネット上では「EV一辺倒のリスクをいち早く察知した見事な戦略」「日本のハイブリッド技術の強みが再評価される流れだ」と、この決断を支持する声が相次いでいます。政策に振り回されない足腰の強い経営基盤を作るという意味でも、このタイミングでの方向転換は非常に理にかなっていると感じます。
三元系正極材が握る次世代車の鍵
同社がこれから本格的に増強していくのが、「三元系(さんげんけい)」と呼ばれる正極材材料になります。これは、ニッケル・コバルト・マンガンの3つの元素を混ぜ合わせたものです。電気を蓄えたり放出したりする効率が非常に優れており、HVやプラグインハイブリッド車(PHV)に最適な特性を備えています。
これらを正極材として採用すると、電池の形状を効率的な角形にすることが可能となります。これまでのEV向け材料と比べて、車に搭載する際のスペースを劇的に減らせるという輝かしいメリットも見逃せません。限られた車内空間を有効活用したい自動車メーカーにとっては、まさに喉から手が出るほど欲しい技術でしょう。
さらに同社は、電池をより長持ちさせるためにニッケルの比率を高める高度な技術開発を進めています。次世代の自動車が一度の充電で走れる距離を伸ばすためには、電池の容量アップが絶対に欠かせません。この技術力こそが、世界に誇る住友金属鉱山の最大の武器と言えます。
一方で、材料の一つであるコバルトは価格が激しく変動する上に、アフリカなどの採掘現場における児童労働という深刻な人道問題も抱えています。そのため、問題の多いコバルトの使用量を抑えつつ、ニッケルの割合を増やすという同社のアプローチは、倫理的な観点からも非常に素晴らしい先進的な試みです。
リスク分散で世界の頂点を目指す
実は住友金属鉱山は、パナソニックを通じて米国のEV大手であるテスラ社へ正極材をほぼ全量供給しているとみられています。しかし、2019年6月24日には中国政府がEV補助金を半減させたことで現地の販売が急減速するなど、環境政策による市場の乱高下をまざまざと見せつけられました。
こうした苦い経験があるからこそ、特定の巨大企業やEV市場だけに依存し続ける体制を見直し、リスクを分散させることが急務だったのです。電池の主要部材で世界首位を争う同社にとって、今回のHVシフトは守りではなく、さらなる頂点を目指すための攻めの戦略に他なりません。
市場調査によると、世界の正極材市場は2022年までに2018年比で約1.5倍の約179億ドルにまで跳ね上がると予測されています。変化の激しいモビリティ業界において、EVとHVの双方に柔軟に対応できる体制を整えた住友金属鉱山は、今後もグローバル市場を力強く牽引していくに違いありません。
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