世界経済を揺るがし続けてきた米中の緊迫した関係に、大きな転換期が訪れました。トランプ米政権は2020年1月13日、中国を対象としていた「為替操作国」の指定を解除することを発表したのです。SNS上では「ついに貿易戦争が次のステージに進んだ」「世界市場にとっては一安心のニュースだ」といった安堵の声が数多く上がっています。為替操作国とは、自国の輸出を有利にするために通貨価値を意図的に操作していると米国が認定した国のことです。今回の解除により、激化していた通貨を巡る対立はひとまず休戦へと向かう見込みでしょう。
今回の決定の背景には、両国が互いに納得できる「適温」の水準まで通貨相場が落ち着いたことがあります。足元での人民元の対ドル相場は、1ドル=6.8元程度で推移しています。これは、米国にとっては元安に対する懸念が和らぎ、中国にとっては輸出への大打撃を避けられるという、まさに絶妙なバランスと言えるでしょう。SNSでも「お互いの妥協点が見えたのではないか」という冷静な分析が見られます。2020年1月15日にはホワイトハウスで貿易交渉の「第1段階の合意」への正式署名が控えており、期待感が高まっています。
ここでこれまでの歴史を振り返ってみましょう。米中の摩擦は2018年3月にトランプ政権が制裁措置を打ち出したことで本格化しました。その後、対立が深まるにつれて人民元は下落し、2019年8月には1ドル=7元台という11年ぶりの元安水準を記録したのです。米国による高関税のダメージを打ち消すために、中国側が意図的に元安を容認したとの見方が市場では強まっていました。この急激な元安を受けて、トランプ政権は2019年8月に中国を25年ぶりに為替操作国へ指定し、対立は関税から通貨へと戦線を広げていたのです。
しかし、わずか5ヶ月で状況が好転した理由には、中国側の切実な国内事情も隠されています。中国では国内銀行の不良債権問題が頭をもたげており、景気を支えるためには海外からの投資マネーが欠かせません。過度な元安が進むと、国内の資金が海外へ逃げ出す「資本流出」が加速してしまうリスクがあるのです。実際に2019年1月から2019年6月までの資本流出額は約15兆円に達しており、これは過去の「チャイナ・ショック」に匹敵する深刻な規模でした。そのため、中国としてもこれ以上の元安は避けたいのが本音でしょう。
見え隠れする米国の強い警戒感とこれからの世界経済
今回の劇的な休戦について、私は単なるハッピーエンドではなく、水面下の冷徹な駆け引きの表れであると考えます。米財務省は指定を解除したものの、「中国は通貨を操作する多様な手段を保持している」と言及し、一切の警戒を緩めていません。中国には、中央銀行による基準値設定のほか、国有銀行を総動員した直接・間接的な為替介入のノウハウがあります。一方で、中央銀行の独立性が高い米国は、政権が為替を自由にコントロールする手段が限られています。この圧倒的な構造の差こそが、米国が怯え続ける理由なのです。
ネット上では「今回の合意は一時的なポーズに過ぎないのではないか」という慎重な意見も散見されます。まさにその指摘通りで、通貨政策は米国が優位に進めてきた貿易戦争の形勢を一気に逆転させかねない、中国側の強力な隠し武器と言えます。中国は今回、通貨政策の透明化を約束しましたが、これがどこまで実行されるかは不透明でしょう。投資家の皆様におかれましては、この「適温」の平穏に慢心することなく、署名後の中国側の具体的な動きや、国有銀行の資金移動の動向を冷徹に見守っていく姿勢が必要不可欠です。
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