「資本主義の悪いところは幸福が不平等に配分されることで、社会主義の良いところは不幸が平等に配分されることだ」という、イギリスのチャーチル元首相が1945年に残した名言をご存じでしょうか。現代の世界において、経済的な格差は切っても切り離せない課題となっています。しかし今、富める者と貧しい者を隔てる壁は、見過ごすことができないほどに高くそびえ立っているのです。
スイスの金融大手であるクレディ・スイスの調査によると、世界の上位1%におよぶ高所得層が地球上の全資産の45%を独占する一方で、下位50%の人々が持つ資産はわずか1%にも満たないといいます。さらに、国際NGO「オックスファム」の報告では、世界トップクラスの富豪わずか26人が、下位38億人もの人々と同じだけの富を握っているという驚愕の事実が明らかになりました。ネット上でも「ここまでの偏りは異常」「もはやSFの世界」と、驚きを隠せない声が溢れています。
このように格差が劇的に拡大した背景には、グローバル化(国境を越えて人やモノ、資本が移動すること)やデジタル化の急速な進展が存在します。これらは経済的成功のルールをガラリと塗り替え、時代の変化にいち早く適応できた者と、そうでない者の二極化を加速させました。そこに政治の怠慢や金融危機の爪痕が重なり、取り残された人々の苦悩は日々深まっているのです。
その怒りや不満のマグマは、いまや世界中を揺るがす大きな地殻変動を起こしています。アメリカでのトランプ政権の誕生や、イギリスによる欧州連合(EU)からの離脱という歴史的な決断も、この格差に対する人々の怒りが引き金となりました。さらには、地下鉄運賃の値上げをきっかけに激化したチリのデモや、年金改革に反対するフランスの大規模ストライキなど、世界各地で悲痛な叫びが上がっています。
ここで本当に懸念すべきなのは、その処方箋の危うさでしょう。既存の政治が有効な解決策を示せない中、安易なポピュリズム(大衆迎合主義:一般大衆の感情や不満に寄り添い、支持を集める政治姿勢)に流される人々が急増しています。特定の敵を作って叩けば一時的に胸はすくかもしれませんが、それは根本的な解決にはなりません。
二極化する超大国アメリカと世界に蔓延する不穏な足音
とりわけ深刻な状況にあるのがアメリカです。2020年1月20日で就任から丸3年を迎えたトランプ大統領は、不公正な貿易や大量の移民こそが国民の生活を脅かしていると主張し続けてきました。こうした排外的な右派の訴えに熱狂し、2020年11月に控える大統領選挙での再選を望む支持者は根強く存在します。
一方で野党・民主党の大統領候補争いでは、中道派のバイデン前副大統領がリードしつつも、左派のサンダース上院議員やウォーレン上院議員が激しい猛追を見せています。彼らが掲げる「富裕層や大企業へ大増税し、国民皆保険や公立大学の無償化を実現する」という甘美な公約は、多くの庶民を魅了してやみません。
与党が排外主義的なポピュリズムに染まる一方で、野党は強者を敵視して弱者にばらまくポピュリズムに侵食されており、超大国の行く末には暗雲が立ち込めています。ヨーロッパの右派、中南米の左派と形は違えど、世界中でこうした大衆迎合的な動きがはびこる原因は、すべて人々の生活苦にあるのです。
しかし、現実を無視した極端な政策は、中長期的な成長の基盤をボロボロにしてしまいます。トランプ氏による貿易制限はアメリカの経済的な魅力を低下させていますし、少子高齢化に悩むヨーロッパも、外の世界に背を向けては活力を維持できません。また、左派が叫ぶ大増税は、企業の資本逃避などを招いて経済を失速させる恐れがあります。
私は、今こそ「パイを広げながら適切に配る」という冷静でバランスの取れた舵取りが必要だと確信しています。経済全体の成長の恩恵をしっかりと確保しつつ、セーフティネットの拡充や教育改革を通じて、底辺から生活を押し上げる地に足のついた包摂的(すべての人を包み込む)な社会づくりこそが、ポピュリズムの暴走を止める唯一のブレーキになるはずです。
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