私たちの足元で静かに都市を支え続ける「ヒューム管」。この強固な遠心成形鉄筋コンクリート管は、近代下水道の代名詞とも言える存在です。しかし今、この不可欠なインフラ資材が大きな分岐点に立たされています。関東ヒューム管協同組合の古谷彰浩理事長は、2020年4月の契約分から、販売価格を8%から15%引き上げるという苦渋の決断を明らかにしました。
今回の値上げは、2016年07月以来、実に3年9カ月ぶりのこととなります。古谷理事長によれば、その背景には深刻なコスト増が横たわっているようです。セメントや骨材、さらには鉄線といった主要原材料の価格が高騰しており、特にセメントはメーカー側の強い値上げ要請を受け入れる形となっています。材料費だけでなく、物流を支えるドライバー不足による運送費の上昇も、メーカーの体力を奪っているのが現状です。
縮小する市場と、問われるインフラ更新の重要性
かつては飛ぶように売れたヒューム管ですが、現在の市場環境は極めて厳しいと言わざるを得ません。関東地区の需要は、2018年度には6万5247トンと前年度から6%も減少しました。過去10年で市場が半分にまで縮小した影響で、工場の閉鎖も相次いでいます。SNS上でも「インフラが当たり前にある時代が終わりつつあるのか」といった、将来の老朽化対策を不安視する声が散見されます。
需要減の大きな理由は、都市部での下水道整備がほぼ完了したことにあります。東京都心の一部の再開発を除き、もはや「新しく作る」時代から「いかに維持するか」というフェーズに移行したのです。さらに、2019年09月から10月にかけて日本を襲った台風被害により、国土強靱化の重要性が改めて叫ばれていますが、皮肉にも建設業界の人手不足が公共事業の足かせとなっている現状が見え隠れします。
2020年東京五輪後の展望と編集者の視点
今後の見通しについて、古谷理事長は「本格的な需要回復は2021年以降」と予測しています。2020年は東京オリンピック・パラリンピックの開催前後で工事が一時的に停滞する可能性があるためです。しかし、豪雨対策としての雨水貯留管や、老朽化した細い管を太い管へ入れ替える更新工事の必要性は、今後ますます高まっていくでしょう。
編集者としての私見ですが、今回の値上げは単なる「コスト転嫁」として片付けるべきではありません。私たちが快適な生活を送り続けるための「維持費」の請求書が届いたのだと捉えるべきです。安価な供給を強いてメーカーが淘汰されれば、いざ災害が起きた際や更新時期に、必要な資材が手に入らないという最悪のシナリオを招きかねません。適切な価格形成こそが、日本の地下を支える技術を守る唯一の道ではないでしょうか。
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