長野県千曲市に位置する戸倉上山田温泉は、古くから善光寺参りの「精進落としの湯」として愛されてきた歴史ある温泉街です。精進落としの湯とは、巡礼や修行の後に肉食を再開し、日常に戻る前に心身を清める温泉を指します。この伝統的な名湯で今、訪日外国人観光客(インバウンド)を惹きつける新たな試みが注目を集めています。
その中心人物が、老舗の亀清旅館で宿主を務める米国出身のタイラー・リンチさんです。長野県内ではスキー目当ての外国人観光客が年々増加していますが、彼は温泉街全体への回遊を促すため、スマートフォンアプリと連動した音声ガイドの整備などに取り組んできました。
現在リンチさんが特に情熱を注いでいるのが、自転車を活用した観光施策です。千曲市には、あの松尾芭蕉も俳句に詠んだことで知られる風光明媚な「姨捨の棚田」など、魅力的な名所が数多く点在しています。豊かな自然と歴史を五感で楽しめるサイクリングは、日本のローカルな風景を深く味わいたい外国人観光客のニーズにまさに合致するでしょう。
この魅力を発信するため、温泉旅館組合連合会や行政が一体となり「科野さらしなの里サイクリング推進委員会」が立ち上げられました。副会長に就任したリンチさんらは、サイクリングコースの利便性を高めるために奮闘しています。
同委員会は2019年度からコースの路面標識の整備に本格的に着手しました。すでに温泉街を巡るルートなど4箇所で設置が完了しており、残る5コースについても同様の標識を順次導入していく方針です。道迷いの心配を減らすこの取り組みにより、観光客はより安心してペダルを漕ぎ進められるに違いありません。
SNS上でも「日本の温泉街を自転車で巡るのは最高の体験になりそう」「外国人オーナーの挑戦を応援したい」といった好意的な反響が広がっています。亀清旅館などではすでにレンタサイクルを用意しており、実際に欧米系の宿泊客から高い人気を獲得しているようです。
現状では、温泉街全体の宿泊客に占める外国人の割合はまだ数パーセントにとどまっています。しかし、世界的に人気の高いサイクリングと日本伝統の温泉文化が融合すれば、強力な観光コンテンツになるはずです。地方の魅力を世界へ伝えるこの挑戦は、今後のインバウンド観光の素晴らしいモデルケースになると私は確信しています。
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