私たちの生活に欠かせない衣服や自動車のパーツに使われるナイロンですが、その景気を占う重要なニュースが飛び込んできました。アジア市場において、ナイロンの主原料である「カプロラクタム」の取引価格が、3カ月ぶりに上昇へと転じたのです。大手化学メーカーの宇部興産が、台湾や韓国の主要な繊維企業と結んだ2020年1月11日時点の契約価格は、1トンあたり1330ドルを記録しました。これは前月と比較して65ドル、率にして5%もの大幅な値上がりとなります。
SNS上でもこの動きは敏感に捉えられており、「身近なプラスチック製品や服の値段に影響するのでは」といった生活者目線の不安が呟かれています。また、経済の先行きを占う指標として「ついに底を打ったか」と注目する投資家たちの声も目立ちました。今回の価格高騰の背景には、カプロラクタムを作るためのさらに基礎的な原料である「ベンゼン」の急騰が挙げられます。このベンゼンの高値が、製品価格を大きく押し上げる直接的な引き金となりました。
ベンゼンの2020年1月11日現在の市場価格は、1トンあたり735ドルと、前月から10%も跳ね上がっています。これはおよそ1年2カ月ぶりの高水準であり、化学業界には激震が走りました。ベンゼンとは、原油を精製する過程で生まれる無色の液体で、プラスチックや合成繊維を作るために不可欠な基礎化学物質のことです。世界的な減産体制が続いている中で、中国の製造業者による買い付けが突如として活発化したことが、今回の爆発的な価格上昇を招きました。
もう一つの決定的な要因は、世界経済の足枷となっていた米中貿易摩擦に劇的な進展の兆しが見えてきたことです。両国が交渉において部分的な合意に達したことで、冷え込んでいた市場に明るい兆しが差し始めました。これによって、世界的な需要が再び回復するのではないかという期待感が一気に膨らんだのです。産業界全体のムードがポジティブに傾いたことも、カプロラクタムの値上げ交渉を後押しする強力な追い風となりました。
中国市場の在庫激減がもたらす化学業界の新潮流
これまで中国では、自動車の販売不振やアパレル製品の消費低迷が深刻化していました。そのため、現地ではナイロンの需要が大きく落ち込み、工場の稼働率を下げざるを得ない苦境が続いていたのです。しかし、この苦境に伴う大幅な減産措置が、結果として市場の需給バランスを劇的に変えることになりました。宇部興産の調査によると、現地港湾におけるカプロラクタムの在庫量は、前月末に比べて一気に半分程度にまで減少しています。
過剰だった在庫が急速に掃けたことは、売り手側にとって価格を引き上げる絶好の材料となりました。私は、今回の価格上昇が一時的なものではなく、世界経済が再び活気を取り戻す前触れであると捉えています。摩擦の緩和と在庫整理という二つの波が重なった今、産業の血流である化学素材の復調は好材料でしょう。今後の自動車生産や衣料品の流通がどう連動していくのか、この原料価格の動向から目が離せません。
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