世界中を震撼させている新型肺炎の感染拡大により、金融市場には急激な警戒感が広がっています。これまで米中貿易摩擦の緩和によって持ち直していた世界景気への楽観論は、一瞬にして冷や水を浴びせられた形となりました。ネット上でも「旅行のキャンセルが相次いでいる」「街から活気が消えそう」といった不安の声があふれており、実体経済へのダメージを心配する声が日増しに高まっています。
こうした不安心理を映し出すように、国際的な経済指標が軒並み急落しています。エネルギー需要の指標となるニューヨーク市場のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、2020年1月27日に1バレル52ドル台まで下落し、2019年10月以来の安値を記録しました。1月上旬の中東情勢緊迫時の高値と比べると、下落率はわずか数週間で2割に達しており、市場の動揺の激しさを物語っています。
さらに、中国経済の好不況を敏感に反映することから「ドクター・カッパー(銅博士)」の異名を持つ銅の価格も軟調です。ロンドン金属取引所での価格は1トン6000ドルを割り込み、1月中旬の高値から1割近く下落しました。世界中での「人の移動の停滞」が、航空機や自動車の燃料消費を劇的に落ち込ませるとの連想が働いており、サプライチェーン(部品の調達から製造、販売までの一連のつながり)への悪影響が懸念されています。
インバウンド蒸発の恐怖!直撃を受ける観光・高級品業界
株式市場もこの嵐を避けられません。2020年1月28日の日経平均株価は続落し、前日比127円安の2万3215円となりました。特に打撃が大きいのは、これまで中国人観光客の旺盛な消費の恩恵を受けてきた「インバウンド(訪日外国人客)」関連の産業です。SNSでは「免税店がガラガラ」「デパートの化粧品売り場に人がいない」といった現地の深刻な状況を報告する投稿が相次ぎ、トレンドワードを賑わせています。
世界的な株価を見ても、「服・宝飾」や「航空」は3%近く下落し、「ホテル・飲食・レジャー」も2.5%下げています。アメリカではカジノ運営大手のウィン・リゾーツが8%以上も急落しました。ヨーロッパでも、ルイ・ヴィトンを擁するLVMHやエルメスといった高級ブランドの株価が軒並み下落しています。一方で、感染症対策としての需要が見込まれる「医薬品」や「医療機器」は、下げ幅が0.8%程度と小幅にとどまりました。
市場が最も恐れているのは、2003年に世界を襲った「SARS(重症急性呼吸器症候群)ショック」の再来です。当時は年後半に相場が急回復しましたが、今回の新型肺炎の破壊力は当時を大きく上回るという見方が強まっています。現在の中国は2003年当時よりも個人消費への依存度が遥かに高いため、経済活動が停滞した際の本国へのダメージ、そして世界へおよぼすしわ寄せは比較にならないほど巨大でしょう。
日本への影響についても、専門家からは日本の名目国内総生産(GDP)を4800億円以上も押し下げるとの試算が出ています。これはSARSの時の1.4倍にあたる規模です。近年、日本はインバウンド効果で潤っていたため、観光客が激減した際の直接的な痛手は、過去の比ではありません。この試算は東京五輪前に流行が終息することを前提としており、もし長期化すれば、その傷口はさらに広がる恐れがあります。
私は、今回の事態を単なる一時的な市場の混乱として片付けるべきではないと考えます。発生地である武漢市は、中国の交通や貿易の要衝であり、そこが麻痺することの国際的な意味は重いです。米中貿易戦争が一段落した直後のこの悲劇は、グローバル化された現代経済の脆さを浮き彫りにしました。今こそ、特定の国やインバウンド需要だけに過度に依存しない、強靭な経済構造への転換を模索すべき時なのではないでしょうか。
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