世界鉄鋼協会が2020年1月28日までにまとめたデータによると、2019年の地球規模での粗鋼生産量が、前年と比べて3.4%増加の18億6990万トンに達しました。これで3年続けてこれまでの記録を塗り替えたことになります。粗鋼とは、高炉などで鉄鉱石を溶かして不純物を取り除いた、加工する前の段階の鉄鋼のことです。あらゆる鉄製品の基礎となる重要な指標ですが、この世界的な増産を力強く引っ張っているのが中国に他なりません。
中国における同年の生産量は8.3%増の9億634万トンを記録し、4年連続で過去最高を更新しました。世界全体に占めるシェアは約53%にまで跳ね上がり、まさに市場の過半数を一国で占める「一強」状態です。SNS上でも「中国の勢いが異次元すぎる」「世界の半分以上の鉄を1つの国が作っているなんて驚きだ」といった驚嘆の声が相次いでいます。政府による景気刺激策が呼び水となり、インフラ投資などが活発化したことがこの爆発的な増産の背景にあるようです。
その一方で、中国以外の主要国はアメリカと中国の貿易摩擦が長期化した煽りを受け、苦しい戦いを強いられています。我が国、日本も例外ではなく、自動車をはじめとする主要な製造業向けの需要が世界的に落ち込んだ影響が直撃しました。その結果、日本の生産量は4.8%減の9928万トンに留まり、実に10年ぶりとなる「1億トン割れ」という衝撃的な事態を迎えています。国別の順位では中国、インドに次ぐ3位を死守したものの、国内産業の空洞化を懸念する声も少なくありません。
現在のペースが維持されれば、2020年には中国の年間生産量が世界で初めて10億トンの大台を突破する可能性が現実味を帯びています。しかし、手放しでは喜べない不透明な影も忍び寄っているのが現状です。足元では新型肺炎の流行が影を落としており、中国国内の経済活動が停滞するのではないかという不安が急速に広がっています。もし需要が冷え込めば、行き場を失った大量の鉄鋼が市場に溢れ返り、世界の価格相場がさらに崩れてしまうでしょう。
私は、今回のデータは日本の鉄鋼業にとって大きな転換期を告げる警鐘であると感じています。単に規模を追い求めるのではなく、環境負荷を減らした高付加価値な特殊鋼の開発など、技術力で差別化を図る戦略がこれまで以上に求められるはずです。中国の動向に世界の経済がここまで左右される現状だからこそ、日本は独自の強みを再定義せねばなりません。未曾有の需給バランスの変動に対して、各メーカーがどのような次の一手を打つのか、今後の動向から目が離せません。
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